富山市で繰り広げられる、ます寿司ワールド
最近は東京のコンビニでも買えるようになった、ます寿司。富山のおみやげ・駅弁の定番であり、だれもが認める富山のご当地グルメの代表格でもあります。
いわずと知れた、酢飯に色合いの美しいサクラマスを乗せ、これまた緑鮮やかな竹の葉で包んでしっかりと重石をした、押しずしの一種。昔はます寿司を家庭で作っていたけれど、今は作られなくなったといいます。シンプルながらも、それぞれの素材の香りと味わいのハーモニーがすばらしく、北海道のJR函館線・森駅の「いかめし」などと同様、「駅弁は簡素な食材が一番おいしい」の典型でもありますね。
ます寿司は、もともとは富山市に流れ込む神通川を遡上してきたサクラマスを使っていたところ、漁獲高が減少し、また地元以外で広く消費されるようになったため、北海道産や輸入品も使うようになったとのこと。コンビニで売られているます寿司のサクラマスも、おそらく輸入品でしょう。
とまあ、「ああ、ます寿司ね」というほど全国的にポピュラーな食べ物なのですが、富山の人は、それぞれにごひいきのます寿司メーカーがあり、富山市内には「ます寿司ストリート」なる通りがあるほど、地元での愛され度が格別であるという噂を聞きつけました。そういった空気は現地で感じてみないとわからない!というわけで、おいしいます寿司を求めて、いざ、富山市まで…。
富山ます寿司協同組合によると、富山市内には13軒のます寿司店があるそうで、確かに七軒町周辺にお店が集中していました。もちろん、駅周辺などにいろいろなお店のます寿司を並べて販売しているショップもあります。ここに、その13軒のお店のます寿司の特徴をざっと紹介してみましょう。
- まずは「ちとせ」さん。食感を考えてお米をブレンドい、酢、砂糖、塩をバランスよく配合した味付けが特徴的。
- 老舗の「元祖・関野屋」さん。ますは塩と甘酢、ごはんはあっさり目なのが特徴的。
- 「元祖・せきの屋」さん。明治11年創業の老舗。ごはんとますの両方を甘酢で味付けするのが特徴的、だそう。
- こちらは「高田屋」さん。ますには生酢と塩、ごはんは甘酢。重石を使った、しっとりしたごはんが特徴的。
- こちらは「吉田屋」さん。重しを使わず、米酢を使い、ごはんをふわっとさせて、つぶさないのが特徴。
- こちらは「高芳」さん。重石を使った、調味料控えめのあっさり味が特徴的。
- 「今井商店」さん。ますは塩で身をしめて味付けし、酢で洗う。ごはんはほどよく甘い上品さが特徴的。
- 「川上」さん。ますの脂ののり方で調味料を調整。この道60年(!)のベテランが作る逸品。
- 「小林」さん。ますには塩と酢だけ、ごはんには甘酢を使用してほんのり甘いのが特徴的。
- 「青山」さん。ますは、米酢を何種類か混ぜて調味。ごはんは甘酢。やや酸味のきいた味が特徴的。
- 「なかの屋」さん。やや甘みをきかせた甘酢味のますと、あっさり味のごはんが特徴的。
- 「前留」さん。ますはあっさり、ごはんはさっぱり味なのが特徴的。
- 「なみき」さん。ごはんにもますにも甘酢と塩を使った、ほどほどのさじ加減。
まさに、ます寿司ワールド。傾向としては、老舗はしっかり酢の味をきかせ、新しい店はあっさりしたます寿司が多いよう。また、ます寿司には、1段重ね、2段重ね、場所によっては3段重ねがありますが、駅弁として1人で食べるのなら、1段重ねで十分です。
- 竹棒でしっかりごはんとますを押してある。
- 駅弁にぴったりのます寿司は、富山駅付近で売られている。
- しかし、メーカーにこだわる地元の方は、13軒のお店が集まる「ます寿司ストリート」へ!
- ます寿司の作り方。もともと、神通川でとれるサクラマスが名物になった発端。
- こちらは続き。
今回は時間の関係で、すべてのます寿司を実食することができなかったのが残念でした。
ちなみに上写真は、富山駅近くのます寿司ショップで女性店員さんの好みだったので選んだ(笑)、あまり酸っぱくないという「ちとせ」のます寿司。しっかり竹でごはんを押してあり、ますもごはんもほどほどにマイルドでおいしかったです。
以前おみやげでいただいて食べたことがあるます寿司も、おいしかったけれど、今から思えば、個人的には酸味が効きすぎていた気がします。全国のコンビニで売っているものは、まぁ、富山のます寿司とは別物と考えた方がよさそう。
富山県全域には、富山ます寿司協同組合に加盟していないます寿司店もたくさんありますが、少なくとも本当においしいます寿司が食べたかったら、メーカーにあたりをつけて、駅などで売っているものを適当に買わない方がいい、というのが旅人への教訓です。
しかし、これだけいろいろなタイプのます寿司店が味の競演を繰り広げていると、確かに自分の好みを探したくなってしまいますね。富山の方のお気持ちがわかったような気がしました(笑)。チャンスがあれば、13種類のます寿司をすべてトライしてみたいと思っています。