冬に好まれるイラク・クルドのスープ料理
イラクやトルコ、イラン、シリアなどにまたがった地域に暮らすクルドの人々。主に山岳地帯に暮らしてきた、屈強で誇り高き山の民です。独立国を持たない民族だといわれていますが、イラク北部にはクルド人自治区(クルディスタン)があり、何年か前に訪ねたときは実質、独立国のような自治権があるようで驚いたものでした。
そして、クルド人=イスラム教徒だと思っていたら、これも間違いで、少数派のヤジディ教徒もいえば、ユダヤ教徒もいます。
ただ、クルド系ユダヤ人の大多数はイラク当局によって強制退去させられ、1950年代初頭に他のイラクのユダヤ人コミュニティとともにイスラエルに移住。同時にイラン・クルディスタンのクルド系ユダヤ人の大多数も、1950年代に主にイスラエルに移住しました。現在、イスラエルには約20万人のクルド系ユダヤ人が暮らしているそうです。
ということで、イラクにはもうクルド系ユダヤ人はほとんど残っていないはずなのですが、イラクやシリアの料理キッベ(クッバ)をスープに入れる、まるでユダヤ教徒が安息日に食べる種なしパンをこねたマッツァーボール・スープのような料理に出会いました。
敬虔なユダヤ教徒は戒律により、金曜日の日没からの安息日に一切の労働をしないので、ユダヤ料理には安息日前からとろ火にくべて作れる煮込み料理がたくさんあります。
通常、キッベはひき肉を挽き割小麦やごはんなどで包んで揚げて食べますが、スープ仕立ては初めて見ました。実際、地元の人々の話でも、キッベをスープに入れるのはこの地域のクルド人特有だろうとのこと(希少料理なのかYouTubeの動画を探しても出てこない…)。
実際、生地にマッツァーを砕いて加えるとのことからもクルド系ユダヤ人の料理だった説があり、彼らは冬の時期、体を温めるために食べていたといいます。イラクの冬は意外と寒いのです。
お腹にやさしいスープ料理のため、今では、イスラム教徒のクルド人がラマダン月の断食の際、日没後に食べる夕食としても好まれています。
キッベ・カムスタ Kibbeh Khamoustah レシピ
【材料】
3~4人分
クラッカー 1カップ フードプロセッサー等で細かく砕いておく。現地では種なしパン(マッツァー)を使用。
強力粉 1カップ
植物油 適量
水 1カップ+2カップ
塩 小さじ1/2(だんご用)+適量
にんにく 4かけ みじん切り
青ねぎ 6本 輪切り
スイスチャード 4~5枚 なければほうれん草で代用。食べやすい大きさに切る。
レモン汁 大さじ1
【作り方】
1.フライパンに油をひき、牛ひき肉を炒める。
2.ボウルに砕いたクラッカー、強力粉、水1カップ、塩を入れて混ぜ、生地を作る。
3.2の生地を50gずつ取り、団子を作る。手に小麦粉をうすくつけるとだんごを丸めやすい。
4.3のだんごをくぼませて、1の牛ひき肉炒めを大さじ1取ってだんごの中に詰めて生地を閉じる。
5.スープを作る。鍋に油をしきにんにくをきつね色になるまで香り立たせながら炒める。
6.5に青ねぎとスイスチャードを加えてまぜ、4分程炒める。
7.6に水を加え沸騰させ、アクをすくい、塩少々とレモン汁を加えて調味する。
8.7に4のだんごを加え、さらに12分ほど弱火で煮込む。
・タイムの葉を入れることもあります。