カトリックのミサ儀式に用いられる”たねなしパン”
バチカンはローマ市内にあるキリスト教カトリックの総本山である国家。世界一面積の小さい国でありながら、ヨーロッパや中南米などに潜在的な約13億人の信徒を抱え、重要な地位を占めています。
ホスチア(hostia)は、カトリックのミサの儀式・聖別に用いられる、イースト菌(酵母)を使わない円形の薄焼きパン(たねなしパン)のこと。「聖体拝領のパン」もしくは単に「聖体」ともいわれ、ラテン語の「いけにえ、供物」が語源だといわれます。
パンとワインはイエス・キリストの血肉とされますが、カトリック信徒は、ホスチアがミサの中で聖変してイエスの身体になってから聖なるものになると考えています(逆にいえば、ミサの儀式前のホスチアは、単なる”たねなしパン”です)。


旧約聖書の出エジプト記にも登場し、今もユダヤ教徒が過越の祭(ペサハ פֶּסַח、英語ではPassover)の時に出エジプト記の故事にちなんで食べる「マッツァー(マッツォ)」を起源とし、イエスが最後の晩餐のときに食べたのもこのパンだったと伝えられています。ペサハは、キリスト教の復活祭(イースター)を表わすイタリア語のパスクア(Pasqua)、ギリシャ語のパスハ(Πάσχα)の語源でもあります。
現在では、キリスト教徒が教会で用いるパンと、ユダヤ教徒が食べるマッツァーには違いが見られます。
マッツァーは粉にして使ってもよいとされる麦の種類が限られ、生地と水と混ぜてから18分でパンが膨らみはじめると信じられていたため、今でも18分以内に作らないといけないことになっています。ユダヤ教徒にとっては救世主が訪れる前の苦悩と苦しみのパンであり、膨らみを抑えるために刻印や文様を入れたり、フォークなどでパンの表面に穴を開けることもあります。
カトリック教会の教会法では、聖体には発酵させないパンを用いるよう定めていますが、ギリシャ正教などの東方正教会の大多数では逆に、たねなしパンの使用を禁じ、新しい契約の象徴として発酵したパンを用います。一説にはこの考え方の相違が東西教会の分裂をもたらした3つの争点のうちのひとつだったともいわれています。
ただし、東方正教会でもアルメニア使途正教会ではたねなしパンを使ったり、逆にレバノンのマロン派を除く中東や東欧のカトリックでは発酵したパンを用いるなど、宗派によって例外もあるようです。
プロテスタントでは、一般的に正教会のように発酵したパンを用い、またカトリックのようなミサでパンにイエスが宿る聖餐式がないとされる一方で、ルター派はウエハースのような薄いたねなしパン以外に、発酵したウエハースまたはパンも使用でき、モルモン教は特に厳密な決まりがないなど、やはり宗派によって違いがあります。
いずれにしてもホスチアに用いるパンは、非キリスト教徒が想像する以上に重要な意味を持つ、聖なる食べ物であることを理解しておきましょう。
ホスチアの材料は小麦粉と水だけです。聖なるパンとキリスト教徒の人々の慣習に敬意を払い、その文化背景を思い浮かべながらホスチアを召し上がってみてください。

ホスチア Hostia レシピ
【材料】
・小麦粉(精製された白い小麦粉) 30g
・小麦粉(全粒粉) 140g(全粒粉がない場合は白い小麦粉だけでもよい)
・温水 125ml
【作り方】
ホスチアの作り方手順(動画)
米国のカトリック教会でのホスチアの作り方手順を紹介した動画です。