辛く、味わい深く、薫り高い料理
インド最北部のジャンムー・カシミール(2019年にラダックとともに連邦直轄領に)は、ヒマラヤ山脈をのぞむ緑の木々と湖に恵まれた美しい自然を誇る一方で、印パ戦争の引き金になったパキスタンとの領土紛争とテロにさらされてきた地域。イスラム教徒が大多数を占めますが、インドでもっとも北に住むヒンドゥー教の最高位カースト、カシミール・ブラーマー(パンディット)に代表されるヒンドゥー教徒、そして少数の仏教徒(チベット仏教)が暮らしています。
↑カシミール・ローハン・ジョシュ
ジャンムー地方に集中して住んでいるカシミールのヒンドゥー教徒は、最高位カーストのヒンドゥー教徒(ブラーマー)であっても肉食することで知られています。これは、カシミール・ブラーマーがかつてすべてのインド人が肉を食べていた時代以降、ヒマラヤ山脈によって隔絶され、他の地域のヒンドゥー教徒が菜食主義になっても、そのまま肉食を続けたためだといわれています。ただし、食べる肉は羊のラム肉と、野生のいのししや野鳥のみ。神聖なる牛の肉はもちろん、宗教的な理由ではなく、汚いものを食べるという理由で豚肉や鶏肉、卵は食べない人も。また、たまねぎとにんにくも臭いがきついという理由で食べないのだとか。よく使うのはギー(バターオイル)。他のカーストのヒンドゥー教徒も同様に肉食します。代表的な料理はラーン(ラムのスパイス蒸し焼き)やカシミール・ローハン・ジョシュ(骨付きマトンの煮込み)などです。
また、カシミールのイスラム教徒の間では、ワズワンという、数々の肉料理をメインにしたフルコース料理が名物。代表的なメニューは、ヨーグルト入りのソースで煮込んだ肉団子のグシュタバや、ヨーグルト入りカレーのヤクニなどです。
東部のラダックにはチベット仏教徒が住み、モモと呼ばれる水餃子や、スープ麺のトゥクパ、ツァンパと呼ばれる麦こがしなどが食べられています。
カシミールの主食は米。カシミール地方で収穫される米は、甘味があって香りのよいバスモティ米で知られています。また寒冷な土地柄を反映して、辛い(時には非常に辛い)料理が多いのですが、ただ辛いだけではなく、肉や凝乳、アーモンドなどのナッツ類、サフランやカルダモンをはじめとするスパイスの旨みがきいた味わい深さ、薫り高さが特徴的です。