TRANSIT 9号 モロッコ特集|講談社MOOK
[ ■各国料理の本 ]

「美しきモロッコという迷宮」
講談社MOOK「TRANSIT(トランジット)」の9号はモロッコ特集。タジン鍋等に端を発したモロッコ注目度の追い風を受けてか、Amazonでも売れているようです(7月16日現在、旅行ガイド部門で2位)。本の中では、モロッコ料理についてもページが割かれています。
料理のコーナー自体は4ページ。タジンについて、クスクスの蒸し方について等が図解されているほか、モロッコ人の1日の食事、ラマダーンや犠牲祭などについてが解説されています。料理の本ではないので割かれたページが少ないのがちょっと残念ですが、マストアイテムな食の基礎情報がわかりやすいし、全体的に写真が魅力的なので(日常の食に関する写真もときどき登場します)、それだけでも楽しめると思います。
モロッコ料理といえば、今年は「家庭で楽しむモロッコ料理」(小川歩美著・河出書房新社)というレシピ本が発刊されました。また先日、在日モロッコ人でNHKラジオなどで活躍されている井上ハキマさんをお招きしてモロッコ家庭料理の教室をe-food.jpで開催したところ、すぐに満席になる人気でした。料理教室の中で、ハキマさんが「モロッコの主婦はほとんど一日中、台所にいて料理を作っている」とおっしゃっていたのが印象的でした。牛肉とプルーンのタジンという、一見、簡単そうなお料理でも、スープを何度も漉すといった手間のかけ方にびっくり。だから、モロッコの料理がおいしくないはずがありません(敏感な女性はすでに嗅ぎ分けているのかも)。食生活を見直す食育の大切さがいわれている昨今、家族のために手間をかけて料理を作るモロッコ主婦の心意気に日本人も学ぶところがありそうですね。
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さて、話を戻して、モロッコというと日本人がまず思い浮かべるのは、ハンフリー・ボガード主演の「カサブランカ」やマレーネ・ディードリッヒ主演の「モロッコ」といった昔の映画、また近年ではベルナルド・ベルトルッチ監督の「シェルタリング・スカイ」(この映画を観て感銘を受け、モロッコに行ってしまった友人複数あり(笑))あたりのイメージでしょうか。観光客のために、わざわざボギー似の?バーテンダーを置いている某アメリカ系ホテルもあるくらいです。これらは欧米人の目線から見た映画なので(「カサブランカ」にいたっては現地ロケすらしていないし)、日本のフジヤマ・ゲイシャよろしく、現地人の感覚とずれている部分も多々あることでしょう。
ただ、モロッコが混沌としていて、エキゾチックで、神秘的であるといった映画のイメージを頼りに、強烈に旅心をかきたてられる場所であることに違いはありません。旅の醍醐味は、期待をふくらませながら旅程を立てている出発前の瞬間にワクワクし、旅先で、その最初のイメージとのズレに驚くことなのです。
「TRANSIT」は、永久保存版の総力特集とうたっているだけに、たくさんの写真と、A4にして177ページにくまなく網羅された情報(地図の付録のほか、たとえばモロッコの号では、カルーセル麻紀さんへのインタビューも。モロッコはかつては性転換手術のメッカなのでしたっけ(笑)で、旅のイメージをかきたてるにはもってこいの本かもしれません。

e-food.jp代表、郷土料理研究家、コラムニスト。主な著書:『見て、読んで楽しむ 世界の料理365日』(自由国民社 2024)、図鑑NEOまどあけずかん『せかいのりょうり』監修(小学館 2021)、(誠文堂新光社 2020)、『しらべよう!世界の料理』全7巻(図書館選定図書・ポプラ社 2017)。
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