ニューヨークで思ったこと
昨日、カナダのトロント経由でニューヨークから帰ってきました。当地の料理については、のちほど詳しくリポートしたいと思いますが、ここではざっと全体的な印象を...。
いろいろな国の出身者が暮らすニューヨークは、エスニックフード ethnic foodという言葉の"発祥地"。食の都としてのニューヨークの魅力は、まさにこのエスニックフードが支えているといっても過言ではありません。
そして、日本でエスニックというと、「東南アジアや南アジアあたりのスパイシーな料理」といったイメージ程度ですが、ニューヨークでは、もっと深遠な意味を含んでいるような気がします。
つまり、移民として世界各地からやってきた人々が、アイデンティティを示すための、文字通り、エスニック=民族の料理という意味。
レストランは昔から、裸一貫で移住してきた人々が、手っ取り早く現金収入を得られる商売のひとつですし、同胞のためにも、アメリカで認められるためにも、自国の名を掲げるからにはヘタなものを出せないという誇りがあるのでしょう。
だから、実際においしい料理を出すお店も多いんですね(もちろん、一般アメリカ人好みのテイストに迎合しすぎて、ありゃりゃというケースもありますが...)。ニューヨークに来て、ピザやホットドッグやステーキばかり食べているというのは、もったいないですよ(笑)。
たとえば、今回の滞在中に訪ねた、ボスニア料理のレストラン"Djerdan"。お店では、美しいスラブ系の女性がにこやかに出迎え、ハイカロリーで調味料を多用する傾向にあるアメリカの料理の中にあって、野菜など素材の味を生かした、ヘルシーでおいしいお国料理を手ごろな値段で提供していました。
ボスニア・ヘルツェゴビナといえば、悲惨な内戦のあった国と思い出される方も多いかと思いますが、これだけ感じのよいレストランなら、ニューヨークでボスニアのイメージもよくなるはず。実際に人気もあるようで、マンハッタンのミッドタウンを含む、市内に3軒の店舗を展開しているようでした。
ところで、当地のエスニック・レストランのガイドには、フランス料理や日本料理はもちろん、ボスニア料理もアメリカの郷土料理も、平等に網羅されています。
先の理由から、私は、日本でエスニックという言葉を積極的に使いたくないのですが、この全方向的にニュートラル(=中立的)な感覚が、多様な価値観を認める大人の街・ニューヨークらしくていいなぁ、なんて改めて感銘を受けたりしました。
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ちなみに、帰りに立ち寄ったトロントにも、移民コミュニティがたくさんあって、ニューヨークにない国を含む、いろいろな国の料理をレストランでいただくことができます。
カナダとアメリカは、陸続きで、同じ移民の国だから、よくひとくくりにされがちですが、"世界の警察"気取りの国家ではないし、戦争をけしかける大統領もいないしで(笑)、市民の精神的な住みやすさは大違いという感じ。この世の中には、アメリカを嫌う人々も多いのです。こちらの詳しいリポートも、また改めて。
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あちらでは、最近、発売された「ミシュラン」初の北米版レストラン&ホテル・ガイドである"New York City 2006年版"を買ってみました。地元ではその評価が物議をかもしているようですが、私は、一般投票を集計した「ザガット・サーヴェイ」ではいまいち心もとなかったレストラン評価も、責任編集の「ミシュラン」なら、より信頼できるという印象。
「ザガット」の評価法は確かに合理的なのだけれど、高得点を信じて実際にお店に行ってみると、がっかりさせられることが多々あるんですよね。「ミシュラン」はおまけにレシピもついていますし、おいしい食事のためにはお金をいとわない美食家のためのガイドブックという感じがします。
ただ、「ミシュラン」の3つ星の4店のうち3店がフレンチ系というのは、ちょっと...。ニューヨークの食の魅力は多彩な各国料理にあると考えると、所詮フランス人感覚のガイドブックなのね...という思いも。
一番、間違いないのは、「ザガット」と「ミシュラン」の両方で評価されているレストランを選ぶことでしょうか(笑)。と、とりあえずはこんなところで...。
e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、全日本司厨士協会会員 調理師。主な著書:図鑑NEOまどあけずかん「せかいのりょうり」監修(小学館 2021)、「世界の郷土料理事典」(誠文堂新光社 2020)。
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トラックバック時刻: 2005年12月23日 14:52
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