千里香|延辺料理|大久保
[ 韓国・朝鮮料理 ]

とうがらしを使った朝鮮族の料理
【大久保】新大久保駅と大久保駅を結ぶ通りの中間点くらいにある、中国東北地方の延辺(えんぺん)朝鮮族自治州の料理を主に提供するお店。
先日放映されたNHK国際放送の番組「トウキョー・アイ」は大久保エスニックタウンの特集で、韓国料理店やイスラム食材店、モスク、インドネシア・パダン料理のお店とともに、このお店が取り上げられていました(エスニックタウン特集というと色物扱いになりがちな民放番組とは違い、バランスのいいインターナショナルな感覚で、各国料理好きにとっても魅力的な番組構成でした)。
韓国や北朝鮮と同じ民族で、自らを英語でチャイニーズ・コリアン("コリアン"に重きを置いているということか)とも称する延辺の人々。その料理の代表格といえば、羊肉串と冷麺、そしてとうがらしを多用したおかず類のムチムでしょう。特にスパイシーな羊肉串は、看板に掲げるほど人気があるようです。
大久保には他にもいくつか延辺料理の店がありますが、こちらは、羊肉串の種類にこだわっていることもあって、中でも評判のいいお店。ちなみに延辺料理のお店は、都内近郊でも最近、増えてきていますね。
ちなみに羊肉串は、中央アジアのシシカバブもしくはシャシリクと同様に西域にある新疆ウイグルから伝わった食べ物かと思いきや、同じ羊食の遊牧民の国・モンゴル経由で中国東北地方に入ってきて定着したのだそうです。両者は見かけは似ていても、使用するスパイスの数や種類の違いで味が異なります。
こちらのお店では、羊肉串を「羊カルビ」と称し、延辺風味とウイグル風味の両方を用意しているので、食べ比べが可能。また、筋肉やスペアリブなど羊のさまざまな部位を取り揃えていて、はっきりした味の違いを楽むこともできます。ここまで羊肉串を追求した店は他になかなかないと思います。
珍しいところでは、現地から取り寄せたという蚕(かいこ)の串焼きも。日本の蚕とは違う種類で、見た目はギョっとしますが、ちょうどよい焼き加減でおそるおそる食べてみると、味はエビのようでなかなかいけます。「トウキョー・アイ」でリポーター役を務めていた、浅草でコシャリ店を経営されているエジプト人のモーメンさんは、「(エジプトの羊の)脳みそのような味」と表現。確かにぐにゅっとした食感がねぇ...とつい笑ってしまいました。
そろそろ涼しくなって食欲の秋が本格的に到来しそうですが、この羊肉串、蚕串(?)をテーブルに備えられた炭火でじっくり、じゅわっと焼くと...もう、たまりません。


左写真がメニュー。同じ羊肉串でも種類いろいろ。右写真は羊肉串を食べるときにつけるスパイス。もともと肉に味がついているが、12種類のスパイス+クミン+砕いたとうがらし(右写真)をつけると、意外と激辛とはならず、さらに風味が増しておいしい。
また、冷麺は、日本では夏以外はちょっと季節外れな感覚ですが、こちらの店では1年中、冷麺を食べられます(本場では冷麺はもともと冬の食べ物で、今では1年中食べられており、冷麺専門店が存在するほど)。麺はそば粉麺、またはとうもろこし麺。甘酸っぱい味のついたスープが延辺冷麺の特徴でしょうか。現地で発売されている郷土料理本シリーズの「東北」版では、「朝鮮冷麺(延辺冷麺)」のレシピとして、スープに砂糖を入れると記されています(ただし、だし味だけのスープもあり、また麺に中華麺を使うなどバリエーションがあるようです)。


そば粉の冷麺(左写真)と、とうもろこしの冷麺(右写真)。珍しいとうもろこし麺は、中国東北地方産の粘り気のあるとうもろし粉を使用している。この地方はとうもろこしが特産で、他にも料理にとうもろこし粉をよく使うとのこと。とうもろこし麺は見た目はラーメンの中華麺のようだが、歯ごたえがやや柔らかい。通常は温麺として食べることが多いそう(確かに、そば粉の冷麺の方がおいしく感じた)。
牛スジや、キュウリと春雨、じゃがいもの細切りなどをとうがらしと調味料で和えた、真っ赤な小皿料理が並ぶムチムは、ほどよい酸味があって見かけほど辛くなく、また韓国料理とは似ていてもちょっと違った、田舎料理のような味わいで、おいしくいただけました。あとは延辺名物の狗肉料理(狗=狼と書いて犬を称する)も...。
ただ、これら延辺料理だけでは正直、ちょっと飽きてしまいそうなのですが、お店側も心得ていて(?)、一般的な韓国料理や、空心菜炒めなどの中華料理も用意されているので安心できます。
衰えぬ韓流ブームのためか、珍しい料理が安く食べられるためか、週末夜ともなると、韓国人のほか日本人の若者でごったがえする大久保。サムギョプサルやチゲ鍋もいいけれど、たまには変化球で、大久保コリアンフードのさらに奥深さを楽しんでみてはいかがでしょう。

千里香 (せんりこう)
東京都新宿区百人町1-17-10 細野ビル2F
Tel. 03-5338-6918
http://r.gnavi.co.jp/b654500/
■営業時間:11:00-翌5:00
■定休日:無休

e-food.jp代表、郷土料理研究家、コラムニスト。主な著書:『見て、読んで楽しむ 世界の料理365日』(自由国民社 2024)、図鑑NEOまどあけずかん『せかいのりょうり』監修(小学館 2021)、(誠文堂新光社 2020)、『しらべよう!世界の料理』全7巻(図書館選定図書・ポプラ社 2017)。
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