2006年02月06日

京都のほんまもん

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宇治茶の老舗・三星園を訪ねて

週末に京都へ行ってきました。あちらでは、骨董品店さんをめぐったり、宇治の老舗のお茶屋さんを訪ねたり、禅寺で和尚さんの法話を聞いたり、珍しい各国料理(スロヴェニア、チャモロ、チベット料理)を食べに行ったりして(笑)過ごしていました。

京都は、各国料理レストランの質も高く(→京都 各国料理レストラン・リスト)、骨董品屋さんの店先では、安くても良質なものが何気に売られていたりします(今回は、るり色が美しい、有田の名窯・香蘭社製の湯のみと急須6点セットの新品を1500円でゲットしました)。

古い歴史を持つ京都を旅する面白さのひとつは、文化・芸術の"ほんまもん"に触れられることなんですよね。

東京はモノと情報があふれているけれど、まがい物も多いから、ときどき意識して、玉石混淆を見極める審美眼を養う努力をしないと、凡人の私などは、目が曇ってしまうんです。

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今回あちらでは、昨年訪ねてファンになった、500年続く純正宇治茶の老舗"三星園上林三入本店"(茶畑を表す三つ星の地図記号は、このお店に由来)の21代目当主・上林三入さんのお店に再びうかがったのですが、三入さんも、最近のライブドア事件などを引き合いに、こんなことをおっしゃっていました。

「金儲けのためのまがい物に圧されて、ほんまもんがどんどん減ってきている。100年前に1300ヘクタールあった宇治の茶畑も、宅地化が進んだせいで、今では20分の1以下なんです。そして、宇治産ではないお茶が、売れるからという理由で宇治茶と偽って売られていたりする...。だから、私はほんまもんを知ってもらうために、一期一会の地道な広報活動を続けています。多くの人に日本茶の素晴らしさを知ってもらい、本物を見抜く目を持ってもらいたいんですわ」。

お店には資料館が併設されていて、高価な宇治の抹茶を使った(それでいて、参加費はボランティア価格の)茶道教室が行われています。子供たちに本物を伝えたい思いから始められたのだそうです。"三入流"というその作法は、茶道に連想されがちな堅苦さは一切なく、いたって易しく、シンプル。

かくいう私も、昨年までは、特に日本茶に興味があったわけではなかったのですが、三星園で本物の宇治茶をいただいてから、すっかり考えが変わったクチです。今では、日本茶はとても奥が深く、日本が世界に誇る逸品だと思い、大好きになりました。

三星園のお茶は、まろやかでほんのり甘く、とってもおいしいんです(飲み比べれば、違いがわかると思います)が、店舗は宇治にあるだけで、デパートへの出店や、メーカーとの提携話を一切断ってきたとのこと。「デパートに出店したり、メーカーと提携して全国展開すれば、お金は儲かるだろうけれど、品質を保てないから、できない。縁あって宇治のお店にやってきていただいた方に販売しているだけなんです」。

こちらに、上林三入さんと、装賀きもの学院院長・安田多賀子さんとの興味深い対談が掲載されています。
http://www.pr-g.co.jp/200205mitisirube.html
和のみちしるべ

幼少の頃からお茶の道ひと筋、お茶の鑑定士として全国チャンピオンになられたこともある三入さん(偉いお方に失礼は承知ながら、親しみを感じて、どうも"先生"と呼べないのです)ですが、寒空の中、従業員と一緒に、宇治の街道に立ってお店の呼び込みもされているそうです。真に優れたものほど、謙虚で、地道。これぞまさに、ほんまもの。

スローフードという言葉は、日本ではどうやら流行語で終わってしまったようですが、純正宇治茶のような、失われる危機に瀕した、優れた伝統を守っていくムーブメントだけは忘れられないよう、私も微力ながら、何か力になりたいところです。



profile 著者:青木ゆり子 Author: Yurico Aoki

e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、全日本司厨士協会会員 調理師。主な著書:図鑑NEOまどあけずかん「せかいのりょうり」監修(小学館 2021)、「世界の郷土料理事典」(誠文堂新光社 2020)。

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