レストランは、
お客と店主との
信頼関係が大事だと思う。

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フランスでチュニジア料理に出逢い、1990年に当時、日本では珍しかった地中海のアラブ諸国料理のレストラン「カルタゴ」を東京・中野にオープンさせた畑中博シェフ。日本人の味覚に合わせるようとは最初から考えなかったという、よく研究された本物志向の料理には、熱烈なファンが多いようです。
「食文化はお客とレストラン側の対話で育っていくもの」。そんな信条をお持ちのシェフにお話をうかがいました。
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旧ソ連やポーランド、東欧、北アフリカなどを旅してきた。フランスに住んでいたときに、友だちのお母さんからチュニジアの家庭料理を習ったのが、北アフリカ料理との出逢いだった。もとはアーティストをやっていたけれど、純粋芸術だけでは食べていけないので、料理で生計を立てることを思い立ったんだ。絵を捨てたわけではないけれどね。
料理を作るのは大好きで、5歳の時からカレーを作ったりしていたよ。10年前、日本では北アフリカ料理を食べられるレストランなんて無きに等しかった。それで自分で始めようと思ったんだ。
パリでは超一流ホテル「ジョルジュ・サンク」やベトナム料理レストランで働いていた。日本に帰った後は、吉祥寺にあったトルコ料理レストラン「ドネル」で4年間働いた。お店を開店した当時は"地中海料理店"と掲げて、イタリア料理なんかも出していたけれど、エスニック料理のブームがあって、的を絞ろうと思った。
料理については、日本人の味覚に合わせて、なんていうのはハナから考えていなかったし、そもそも日本人客を対象にしていなかった。だから、開店当初は日本人のお客さんはほとんどいなかったよ。最近は日本人と外国人のお客さんの比率が逆転しているけれどね。
店では日本ではほとんど知られていないマニアックでコアな、それでいておいしい料理を出してきた。たとえば、今、新メニューに考えているのはリビアのスープ。北アフリカはスープがいいんだ。
ランチでは今は、チュニジアの「フリカッセ」(右写真)を出している。これはチュニジアのスナックで、揚げパンに、ツナ入りのチュニジアン・サラダに添えた一品。チュニジア国内でも、観光客は知らないと思うけど、現地では誰でも知っている料理だよ。
北アフリカといえば、去年から今年にかけてクスクスがブームになっているね。お店にきたコギャルがクスクスを頼むなんてこれまで考えられなかったよ。フランスでもクスクスは大人気で、「グルメ・ジャーナル」誌では、フランス人の好きな料理の第3位がクスクスだったんだ。
レストランは、お客と店主との信頼関係が大事だと思う。うちも、お客さんが迷子にならないようなメニューの作り方をいつも考えている。常連のお客さんはこちらのお任せにしてくれるけど、初めてのお客さんは、見ていると、こちらの提案を聞かないで変なものを頼んじゃう(苦笑)。こちらも、お客さんの好みがわかってくると、羊がダメな人には羊料理を出さないようにするとか、努力しているつもりだよ。
日本のレストランに欠けているのは、お客にレストランを育てる気構えがないことだろうね。マスコミもそう。いいお客になろうという気がないんだ。食文化はお客とレストランの対話で育っていくものだと思う。なのに、流行しか追わなかったり...。それじゃあね。表面だけの珍しさを書き散らしたレストランの紹介文のなんと多いことか...。
お客さんには、この「カルタゴ」を自分の家みたいに楽しんでほしい。料理は文化。文化としての料理をきちんと考えてほしいと思う。楽しみを見出してね。食べることは楽しいことだもの。日本人は、もう少し突っこんだことを考えるべきだと思うんだ。
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畑中さんのおっしゃるように、今度はバリ、次はベトナムという風に、いろいろな国の料理が珍しさを売り物にされてブームになってきました。
料理をきっかけに、今まで知られてなかった国や地域に光が当てられ、人気が定着するのは素晴らしいことです。しかし、流行を追ってあれこれ目移りするのは、レストラン経営者としていかがなものでしょうか。しっかりとした哲学を持ったオーナーによって、長年、人気を維持している「カルタゴ」のようなレストランが、結局は強いのでは。そんな気がします。(12/6/2001.
by ゆ)
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