あさりのむき身を使った江戸の漁民料理
東京23区東部にある江東区の清澄・白河・門前仲町・森下などを含む「深川地区」は、今も江戸庶民の情緒が息づく場所。ニューヨークでいったらさしずめマンハッタンからイースト川を越えたブルックリン、ロンドンだったらテムズ河南側のランベスに相当するような、隅田川の”川向う”にある、大都会の中で、生活感あふれる昔ながらの下町文化をはぐくんできたエリアでもあります。
あさりのむき身とねぎを味噌で煮込み、どんぶり飯にかけて食べる「深川丼」は、そんな深川が生んだ、江戸前の貝を利用した漁民料理。昔はあさりではなくバカ貝のむき身を使い、屋台で売られる下層階級の食べ物とめされていたそうです。
ちなみに、ブルックリンはホットドッグの発祥地、またランベスや同じくロンドン下町のイーストエンドではうなぎパイが名物。これらも労働者の食べ物という意味で、深川丼と共通点がありそうですね。
さて、東京生まれ東京育ちの人でも、名前が有名な割に深川丼を食べたことがないという人はけっこういるのではないでしょうか。何せ深川の限られた地域に行かないと食べられるお店がないし、作るのは難しくないのに、家庭料理として出されることはほぼ皆無…。かくいう私も両親とも先祖代々の東京出身者にもかかわらず、門前仲町や清澄白河の界隈を訪ねて、今回初めて深川丼を食べてみた次第です。
しかし、いくつかのお店をはしごして深川丼を食べ歩いてみたものの、クォリティは店によって本当にまちまち。同じ名前の食べ物とは思えないほど、見た目にも違いがありました。ひどいお店になると、厚揚げなどでかさ増しして、ほとんどあさりのむき身が入っていなかったり…。深川不動尊(深川不動堂)の門前あたりにある老舗でも信用はできません。
そんな中で、これぞと思ったお店のひとつは、清澄白河の深川江戸資料館近くにある「深川釜匠」さんでした。お店構えはいかにも庶民的ですが、何せ、プリプリのあさりのむき身がたっぷりと入っていて、値段もそこそこなのがうれしい限り。素材勝負の、昔ながらのシンプルな味わいを堪能いたしました。
「深川釜匠」さんの周辺には他にも、深川丼や深川めしを食べさせてくれるお店が点在しており、また深川江戸資料館のほか、寛政の改革を断行した松平定信の墓のある霊巌寺や、出世不動尊というありがたいお不動さん、そして清澄庭園など見どころがいろいろあり、お散歩も楽しいです。
深川江戸資料館では、江戸時代のむき身屋さんの長屋も再現されています。
ところで、深川丼と深川めしの違いは、丼の方はあさり汁のぶっかけ、めしの方はあさりの炊き込みごはんだという点。深川めしなら、森下にある「割烹 みや古」さん(お昼がお手頃価格)あたりがおすすめです。