2010年09月28日

高麗王朝の宮廷料理|シルクロードの料理

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ソウルで味わう貴族の料理

高麗は英語のコリア(Korea)の語源になった朝鮮半島で栄えた王朝(918-1392年)。韓国食文化の黄金時代であり、ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」などに見られる後の朝鮮王朝宮廷料理のルーツです。ソウルにその料理の伝統を今に伝えるお店があると聞き、訪ねてみました。

レストランの名前は「龍水山(ヨンスサン)」。高麗の首都だった開城(=ケソン。現在は北朝鮮領内)出身の貴族で、ソウルに嫁いで家庭で料理を実践で学んでこられたというチェ・サンオクさんが1980年に開いたお店です。店名は開城にある名山。メニューは、彼女が子供の頃から親しんでいた開城の両班(やんばん)料理をもとにしており、現在は会社経営になっていて、ソウル市内に数店のほか、ロサンゼルスと中国・広州に支店を持つそうです。

世界的な美食団体ラ・シェーヌ・デ・ロティスール協会に登録され、またザガットサーヴェイのソウル版でも上位にランクする人気で、地元ではかなりの有名店なのでしょう(値段もそれなりにお高いですが...)。

料理の方は、奈良パークホテルの平城京時代の古代料理のように1000年前の高麗の宮廷料理をそのまま再現しているのではなく、「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚という五感で楽しみ、食材そのものの味を活かす」高麗貴族の伝統を受け継いだ料理といえそうです。

味の方は、おおまかにいえば、韓国料理らしくはあるけれど、とうがらしの調味料味が勝ることなく、あっさりと薄味で上品な風味。上写真の「12色宮廷ビビンバごはん」のように、彩りも美しい料理をコースで存分に楽しめました。

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コース料理はスープ、前菜から順に運ばれてくる。まずは水キムチと、おかゆ。やさしい味わい。

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前菜の4色の野菜と青豆のゼリー、クラゲと野菜の辛和え。とにかく彩りの美しさを考えた料理という感じで、和食のように食材そのものの味が楽しめる。味も薄味好みな私などにはちょうどよかった。

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何とも上品な開城式ポッサム。キムチもそうだが、蒸した豚肉は小エビで風味を付けているそうで、コクがある。開城の料理は、江華島(こうかとう)付近の湾でとれた小エビで豚肉や鶏肉、キムチを味付けているという。葉に豚肉とキムチを包み、タレをつけて食べる。

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左写真は、開城名物のチョランイトックッ(小さな双子もちのスープ)。牛肉のスープにきゅうり、たまご、ごまなどが入った体の温まる一品。もともとはお正月料理だそう。右写真は串焼き。牛肉と一緒に野菜も食べられる、健康への配慮がうかがえる料理だ。

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左写真は、肉と魚の小さなパジョン(下)と、ズッキーニの揚げ物。ここにも野菜が添えられている。右写真は、韓国では有名な潭陽(タミャン)の竹筒を使った五穀飯。ご飯に移った竹の香りがすばらしい。韓国風の味噌汁付き。

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箸休めのキムチなどのおかず類。ラストは、開城だんごなど伝統菓子と果物のデザートで締め。こちらも上品な、ほどよい甘さ。


上記写真をご覧になっていただくとわかると思いますが、奈良の平城京時代の貴族料理が各地の食材を取り寄せ、栄養価を考えた料理だったのと同様に、高麗の宮廷料理も、食材が何とも豊富な上、野菜をたっぷり使って脂も少なく、とてもヘルシーです。

今回はソウルでの滞在時間が限られていてランチタイムに訪れたため、ほんのさわり程度の料理写真しかご紹介できませんでしたがお許し下さい。お店のインテリアもすばらしく、もちろん、夜はもっと豪華な宮廷料理がいただけるので、いずれ再訪したいなぁと思っています。

ちなみに夜のメニューには、ナツメや銀杏、肉、魚、えびなどの鍋料理・神仙爐(シンソンロ)や九節板、あわび料理、大エビ料理などがあります。あ、そうそう、シルクロードを語るときに欠かせない麺類の温麺や冷麺ももちろん!

シルクロードの料理、続いては、中国に移動して、麺料理についてのリポートです。



profile 著者:青木ゆり子 Author: Yurico Aoki

e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、全日本司厨士協会会員 調理師。主な著書:図鑑NEOまどあけずかん「せかいのりょうり」監修(小学館 2021)、「世界の郷土料理事典」(誠文堂新光社 2020)。

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