トルコのワイン


前回はイスラム世界におけるワインを含むお酒に関する認識とワイン産業の発展の状況、そしてあまり知られていないシリアのワインについてお話ししてきましたが、今回も続編としてその他のアラブ諸国やトルコ等他の中近東のワイン事情を見ていきましょう。特にこのコラムではせっかく珍しくて興味を持っていただいても国内で購入できないワインに関する話題が多いので、今回は国内で入手可能であり、かつ各々の国のレストランで味わえるワインについて二回に分けて見ていきたいと思います。

まずはトルコ。日本で目にできる中近東のワインといえば、アラブ圏ではありませんがトルコ産のワインがもしかしたら一番多いかもしれません。日本では中近東のレストランというとトルコ料理というほど、トルコ料理店は多くの都市で見かけられ、身近なファストフードとしてドネルケバブも浸透してきています。

親日的で多くのトルコ人が日本にも来ていることもありますが、なんといっても”世界三大料理”のひとつとも言われるトルコ料理が、中央アジアからもたらされたトルコの伝統料理の枠を超え、近隣のギリシャ、グルジア、シリア等の食文化の要素が混ざり合った地中海東部地域の共通の料理であることも受け入れられている理由のひとつであるように思えます。

そしてトルコでは、大多数がイスラム教徒であるにもかかわらず、飲酒に対する規制がありません。トルコ共和国を建国したケマル・アタチュルクが、建国した時に世俗主義国家として政教分離を図ったことも理由のひとつですが、それ以前からのオスマン帝国時代には、生産を制限されたとはいえミレット制内での寛容性やアナトリア半島がもともとギリシャ文化圏であったことも要因かと考えられます。

ちなみにアナトリア地方では、紀元前にヒッタイト人がワインを製造していたとの記録があり、これがこの地域のワイン生産のはじまりのようです。そしてトルコのぶどう栽培面積は世界でも屈指であり、スペイン、フランス、イタリアに次ぎ多い生産量になっています。ただその多くは主に食用であり、ワインにされるぶどうは栽培面積の3%程度しかありません。

ワインの主要生産地は、バルカン半島東部のトラキアを含むマルマラ地方(イスタンブールを中心にヨーロッパ・アジアにまたがる地域)が中心ですが、エーゲ海沿岸やアナトリア地方等でも生産されています。そして独立の父・ケマル・アタチュルクがお酒好きであったこともあり、当初はほとんど国営企業であるTEKEL社(タバコ・アルコール飲料専売公社):現在は民営化してtta a.s.となり、一部のワイン部門はメイ社に売却)による生産でしたが、近年ではトラキアに設立されたドルジャ社やアンカラに設立されたカワクリデレ社等の民間企業も育ち、国内以上に日本や欧米にその多くを輸出しています。

現在トルコ・ワインはメーカー銘柄とも多種にわたるので、主な生産地とぶどうの品種をあげます。実はトルコ・ワインはぶどうの種類も多くまだ飲んだことのない固有品種も多いので、品種の説明は不十分ですがご容赦下さい。ちなみに日本で一番多くみかけるのは、カワクリデレ社の銘柄かと思われます。

【マルマラ地方】
クルクラーレリ県 パパズカラス種(赤用固有品種)他 ガメイ種、セミヨン種、サンソー種等
チャナッカレ県 カラサグス種(赤用固有品種)
ブルサ県 アダカラス種(赤用固有品種)

※マルマラ地方は他にシャルドネ、リースリングやピノ・ノワールも生産。他の固有品種も。

【エーゲ海地方】
マニサ県 スルタニエ種(白用固有品種)、カルニャン種
デニズリ県 スルタニエ種、チャルカラス種(赤用固有品種)
イズミル県 ボルノヴァ・ミスケット(マスカット)種(白用固有品種)

※他にカベルネソーヴィニヨン、メルロー、シラーズ、ソーヴィニヨンブラン、シャルドネ等も。

【中央アナトリア地方】
ネヴシェヒル県(カッパドキア) エミル種(白用固有品種)、(赤用)
アンカラ県 カレジクカラス種(赤用固有品種)

※カレジクカラス種はカワクリデレ社の研究により絶滅の危機にから蘇った幻の品種です。

※他中央アナトリアの固有品種として赤用:Dimrit種、パパズカラス種、白用:Hasandede種等

【東アナトリア地方】
エラズー県 ボアズケレ種 オクズギョズ種(共に赤用固有品種)

【東南アナトリア地方】
ディヤルバクル県 ボアズケレ種、オクズギョズ種

【黒海地方】
トカト県 ナリンジェ種(白用固有品種)、ボアズケレ種、オクズギョズ種

あくまでも代表的なものをあげただけでもこれだけの品種があるので、トルコ共和国のワインも更に成長しそうなワイン生産国といえるでしょう。しかもトルコ・ワインは、あるレストランに行くと違う呼称で呼ばれることがあります。

例えば欧米の都市にあるクルド料理店に行くと、ワインのメニューにクルド・ワインという表示を見つけることができます。

私も17年前にフランスのパリにあるクルド料理店に行った時にクルド・ワインが飲めるのかとびっくりしたものです。しかし出てきたのはトルコ東部のワイン・ブズバー(ボアズケレ種)で、生産者はトルコの国営企業TEKELでした。このように欧米のクルド料理店ではトルコの東・東南アナトリア地方のワインを北部クルド・ワインとしてメニューに表示してあることがよくあります。

またトルコ東部は他にもザザキ語を話すザザ人等多くの小数民族がいますので、各々の民族料理のレストランでは「私たちの土地のワイン」ということになるのでしょう。

せっかくの美味しいワインに政治問題を持ち込むつもりはありませんが、できることなら各々の主張を受け入れて民族語の名前をエチケットに加えることによって、本当の意味でトルコ人にとってもクルド人にとっても共通の「我々のワイン」になることを願っています。そこに暮らす人や生産する人の心によって、ワインは深みを増すものだと信じているからです。


※この記事は、e-food.jpのメールマガジン「世界料理通信」2008年11月-2010年4月に連載されたコラムを加筆・訂正・更新したものです。


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