マルタ騎士団国のワイン


実行支配により国家を名のっている地域は、前号で述べた以外にもあり、中にはワインを生産している地域もありますが、実はもっと凄い極めつけの国があります。それは国土なき国家マルタ騎士団国です。

「マルタなら知ってるよ、地中海にある島国だろう」とお思いの方も多いと思いますが、そのマルタ共和国ではありません。

マルタ騎士団とは1100年頃に聖地巡礼の保護(主に病気になった巡礼者の保護)のためエルサレムで設立され、十字軍勢力がパレスチナから追われるとロードス島、マルタ島と拠点を移し、1798年のナポレオン・ポナパルトの侵攻によりマルタ島を追われ領土を失った十字軍国家で、現在も国家に準ずる主権実体として国連にオブザーバー参加し、94の国と外交関係を持ち在外公館を保有しています。

現在は本部はローマのコンドッティ通りにあり、国歌や自国通貨を持ち、団員には騎士団のパスポートが発行され、国会にあたる会議が開催されているのですが、亡命政府でないのにも関わらず国土を持たないというところが特殊なところです。

そんな国がワインを生産などというと信じられないかもしれませんが、900年に及ぶ歴史がある十字軍国家でありロードス島を統治していた頃でも団員の構成が言語毎にフランス、オーベルニュ、プロヴァンス、イタリア、イングランド、ドイツ、アラゴン、カステーリャの8つのグループに分かれていたこともあり、団員の故郷である各国に騎士団所有の施設を所有しており、古くから騎士団のワイナリーが各地に点在しているのです。フランスにも騎士団ゆかりのワイナリーが数か所ありますが、フランスは自国生産のワインはあくまでもフランスワインとしています。

それに対して本部があるイタリアと騎士団所有の教会のあるオーストリアのワイナリーでは「マルタ騎士団国ワイン」として販売しているのです。オーストリア最大で名門の醸造元である「レンツ・モーザー社」がマイルベルグにあるマルタ騎士団の農園でグリューナー・フェルトリーナ種とカベルネ・ソーヴィニヨン種を栽培し作っているワインはウィーンのケルントナー通りにあるマルタ騎士団教会や関連の施設(元騎士団の館だったホテル「マイルベルガーホーフ(Mailberger Hof)」等)で購入することができるらしいです。

イタリアではフリウリ州のコッリ・オリエンターリにあるワイナリー「ロッカ・ベルナルダ」がマルタ騎士団の所有で非常に歴史の古いワイナリーです。こちらではフリウリの品種トカイフリウラーノ種を中心にピノ・グリージョ種等を生産しており、日本にも輸出していてネットや一部の店舗で購入ができます。

まあ、実質的には各々オーストリアワインでありイタリアワインであるのかもしれませんが、キリスト教世界がワインとともに紡いできた歴史によってこのような国土なき国のワインというものができたのかもしれません。

ワインにはこのようにそれぞれの国や土地の歴史や文化が染み込んでいるのです。ワインのエチケットを眺めながら、その歴史や文化にも思いを馳せてみて下さい。


※この記事は、e-food.jpのメールマガジン「世界料理通信」2008年11月-2010年4月に連載されたコラムを加筆・訂正・更新したものです。


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