香港のワイン?


前回はマルタ騎士団国という、国土のない国のワインについてお話ししましたが、今回は「ワインの国籍とは何を基準にしているのか」という点に焦点をあてて、最近の珍しい国籍のワインについてお話ししていきたいと思います。

マルタ騎士団国の場合はイタリアやオーストリアにあるワイナリーを所有しているために、エチケットに例えばイタリアなら「Sovrano Militare Ordine di Malta(マルタ騎士団国)」と記載されていますが、日本で購入する場合は裏面の輸入元は「イタリア」と、ワイナリーがあり実際に輸出をしている国名が記載されています。そういった意味ではワイナリーの所在地、つまりぶどうを栽培しワインを生産している土地がワインの生産地ということになります。ただワイン生産用のぶどうの生産地には、イランなど現在、宗教的理由でワインを商業的に生産していない国もあるのです。

新宿にあるアゼルバイジャン料理店(現在は閉店)の店主とアゼルバイジャンワインの話をした時も、「南アゼルバイジャン(イラン領アゼルバイジャン)はワイン発祥の地でよいぶどうが生産されているが、国内でワインを生産してないので欧米などに輸出されている」といった話を聞きました。イラン・ワインといえば、以前都内のペルシャ料理店で「イラン・ワイン」と称して販売されていたのは「イランから苗木を輸出しイラン古来の製法で生産した」という説明付きのオーストラリアワイン(主にシラーズ種)でしたが、東北地方にある「イラン・ワイン」を売りにしているあるお店では、前述のようにイランで生産されたぶどうを他国に輸出してワインを作り輸入したものを提供しているという話を聞きました。

ここで問題になるのは、「ぶどうの栽培国」と「ワインの醸造国」が一致しないケースです。例えば初期の日本のワインや韓国、台湾のワインなどには、欧米などの輸入原液をブレンドしてワインを生産したり、自国品種と欧米の品種を混合したものも生産していました。しかしこれらの国も、最近ではかなり自国でぶどうを育て、ワインを生産する環境を整えてきました。

しかしぶどうの生産に適した土地が少ない国や、そもそもぶどうの生産環境にない国においても、昨今のワイン需要の増加によって自国産のワインや自国ブランドのワインを生産しようという試みが始まっています。

その中の一つが、今年、ワイン関係のイベントが目白押しの香港のワインです。香港政府は貿易戦略として『アジアにおけるワインの貿易・流通のハブ(拠点)を目指す』構想を掲げて、2008年2月には酒税を完全撤廃し、昨年は4月に「国際ワインオークション」、5月にアジア最大のワイン・蒸留酒展示会「VinExpo」、8月には「香港国際ワインエキスポ」を開催するなど、ワイン産業の育成に力を注いでいます。

そのような環境の中で香港ブランドのワイン待望論の高まる中、初のメイド・イン香港のワイン「The 8th Estate Winery」ができたのです。このワイナリーは香港島の南側にある鴨?洲(アプレイチャウAp Lei Chau。アバディーン島Aberdeen Islandの名でも知られる)という島の「港湾工貿中心」というビルの3Fにあり、オーナーはカナダ人女性です。部屋の中は、私たちがイメージするぶどう畑と併設する醸造施設というものではなく、醸造施設であるワイン樽が並べられており、来客用の施設が併設されているといった状況です。

このワイナリーは、ワインに対する確かな知識と舌を持ち合わせた人が世界から品質のよいぶどうを取り寄せワインを醸造しているのです。

ワイナリーの説明では「香港の気候はぶどうの栽培にこそ不向きではあるが、ワインを醸造するのには適している」とのことで、現在販売されているワインは主としてアメリカ合衆国ワシントン州のぶどうを原料として生産されている模様です。現在は白がソーヴィニョン・ブラン種、シャルドネ種、ゲヴュルツトラミーナー種、赤がシラーズ種と「ヘリテイジ Heritage」というメルロー種、カベルネ・ソーヴィニョン種、カベルネ・フラン種のブレンドの銘柄があり、他にデザート・ワインも生産しています。

このような「ぶどう栽培国とワイン醸造国が異なる」という方法のワインですと、ぶどう生産国はアメリカ合衆国ワシントン州なので、アメリカのワインだという見方もできるかもしれません。

この香港のワイナリーは、『ワインを輸出する、いわば「ワインを人に近付ける」一般的な流通方法に対し、ワインが生まれた場所に人が集まるという「人がワインに近づく」という新たな発想でワインを生産・販売』しようとしているとのことで、購入方法はネットでも可能ですが、原則としてワイナリーを訪れた人に販売するようにしているそうです。

下記にワイナリーの住所を記載しておきますので、香港を旅する機会のある方で興味のある方はぜひ訪問してみてください。

The 8th Estate Winery
所在地:Unit 302,  3/F,  Harbour Industrial Center,
10 Lee Hing St,  Ap Lei Chau,

ちなみに今年は「香港フード・アンド・ワイン・イヤー」で、10月30日(私の誕生日(笑)から11月1日まで『香港ワイン&ダイン・フェスティバル』も開催されるようです。ぜひ香港で香港ワインと世界のワインも味わってみてください。


※この記事は、e-food.jpのメールマガジン「世界料理通信」2008年11月-2010年4月に連載されたコラムを加筆・訂正・更新したものです。


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