世界スカウトジャンボリー in Japan

jamboree2

jamboree1

一大国際イベントの食の現場を体験

7月28日から8月8日まで、山口県阿知須(あぢす)のきらら浜で行われた4年に1度の祭典「第23回 世界スカウトジャンボリー」に、食関連の現場スタッフとして参加させていただき、体験取材してきました。

世界中から3000万人が参画する、世界最大の青少年運動組織「世界スカウト機構」によるこのキャンプ大会が日本で開催されるのは、1970年以来45年ぶり。約162ヶ国からの3万人の青少年に加えて、その父兄や関係者、報道陣などが集う一大国際イベントです。

東京ではあまりマスコミに報道されませんでしたが、会場には皇太子様と、地元出身の安倍総理も訪れ、また2019年に開催されるラグビーのワールドカップ、2020年に開催される東京オリンピック/パラリンピックに関する展示もされていて、まさにこれから日本で開催される世界的イベントの前哨戦のような側面もありました。

jamboree_station

jamboree_map

ユダヤ教のコーシャフードの現場に参加

私が着目したかったのは、2週間にわたって大勢の人々に提供される膨大な食事について。中でも、世界中から訪れるあらゆる人々に対応したその多様な食の現場です。イスラム教徒のためのハラールフード、ユダヤ教徒のためのコーシャ(コシェル)フード、その他ベジタリアン、ビーガン、また食品アレルギーなどの特別食が国際イベントでどのように配慮して準備され、提供されていくのか。

今回は、中でも、聖職者の目が光り、食材の選択や調理場の規定がもっとも厳しいといわれる特別食のひとつ「コーシャフード」の現場から、イベントを俯瞰させていただくことに…。

jamboree_kosher
↑ユダヤ教の聖職者ラビの認定マークがついた、コーシャフードの売り場。Chabad House of Japanさんにより、東京・南麻布の「キングファラフェル」が出店。

jamboree_kosherfood
↑ブースでは、中東のひよこ豆のコロッケ”ファラフェル”のピタパンサンドイッチ1品のみを販売。衛生上の問題から生野菜が使えないなど会場側からの制限があったため、苦労されたという。それでも、その場で揚げたてのファラフェルを用意したり、イスラエルから輸入したピタパンなど厳選食材を使った100%ナチュラルな品質を保っていた。聖職者のお墨付きのため、食材に偽装の心配がない。日本人にとっても安心して食べられる一品。

ユダヤ人の方々にいわせると、肉を使わないコーシャのファラフェルサンドは、ヒンドゥー教やジャイナ教、その他肉を食べない主義のベジタリアンにも対応し、またイスラム教のハラールの規定もクリアしているとのこと。アメリカに住むムスリムは、豊富に販売されているコーシャ食品を買い求めることも珍しくありません。

今回の会場では、私の見た限り実際にムスリムの人々が食べにくることはありませんでしたが、もしレストランなどで外国人客を念頭にメニュー開発を狙うなら、最初からコーシャのようなシビアな規定をクリアした料理を選んだ方が、より多くの人々に対応できて汎用がきくだろう、と実感した次第です。

一筋縄にいかないイスラム教のハラール

一方、1500万人程度のユダヤ教徒よりはるかに多い、世界中に約13億人の宗教人口を持つイスラム教徒。しかし、その戒律のゆるさ厳しさの程度はさまざまで、しかも暮らす地域が広範囲に及んでいて食文化が多種多様。そのため、今回、大団体を率いて来日したサウジアラビアのスカウト・チームなどは、最初から自前で食事を用意したといいます。

たしかに、たとえばマレーシア料理やインドネシア料理が、サウジアラビア人の口に合うとはちょっと思えません。かえって中東の食べ物であるコーシャのファラフェルの方が文化的に近かったりして、食事に関しては、たとえハラール認証を受けていても、イスラム教徒というだけでまとめられないようです。

教徒人口が多いゆえ一筋縄にいかないわけですが、ハラールもひとくくりにせず、各国の食文化などを考慮してカスタマイズする必要がありそうです。

jamboree_azer
↑こちらはハラールフードに対応したイスラム教徒の多い国アゼルバイジャンのレストラン・テント。

jamboree_halalfood
↑ハラールミートを使ったアゼリー料理。

jamboree_halal
↑日本のブースでもハラール対応したラーメンが販売されていた。こういった取り組みは、日本の食文化を広く世界の人々に知ってもらうためにも大切だろう。

食品アレルギーへの配慮の重要性

全体的にはもちろん、キリスト教徒や仏教徒(上座部仏教のお坊様ら以外)をはじめ、食に制約のない人たちの方が圧倒的に多く、一般とその他特別食に分かれていたスタッフ専用の巨大なレストランでも、その割合は8:2くらいでした。しかし比率が少なくても、命にも関わるという点でもうひとつ重要なのは、食品アレルギーへの配慮です。

特に欧米などで広く配慮されている、「グルテンフリー」(過剰摂取により腸から栄養の吸収ができなくなるセリアック病を引き起こすといわれる、小麦などの穀物に含まれる粘り気の元であるたんぱく質の一種グルテンを不使用)や「MSGフリー」(化学調味料などに含まれるグルタミン酸ナトリウム不使用)といった対応を国際イベントで軽視することはできないでしょう。

今回、スタッフ用セルフサービスの大食堂をオーガナイズドしていたのはイギリスの会社だったそうで、食事を受け取るカウンター前に本日のメニューの成分を紙に張り出すなど、宗教食やアレルギーへの配慮がきちんとされていて、感心しました。

大きな国際イベントや国際会議を支えるために、世界のあらゆる文化、宗教背景、食品成分などをふまえてここまで個々にカスタマイズできる食品会社は、残念ながら今現在、日本国内にはたぶんないと思います。

多様な人々にきちんと対応した「おもてなし」を

イベントに関する全体的な感想は、3万人規模のイベントでこんなに大変ならば、東京オリンピックはいったいどうなってしまうのだろう、ということでした。訪れた人が楽しめるお祭りのようなイベントの裏で、開催誘致から始まり、現地である山口県の方々の準備のご苦労も並大抵ではなかったと察します。特に、会場の山口県阿知須は、瀬戸内海に面したのどかな田舎町で、このイベントの開催前までは外国人を見かけることすら珍しかった地域だったそうですので、なおさらです。

この場を借りて、このすばらしいイベントのスタッフの一員となれたことを感謝したい思いです。

jamboree_taiwan
↑特別食だけでなく、一般的な食事を提供するレストランも、もちろんたくさんある。こちらは台湾の美食を集めたテント・レストラン。

jamboree_reliegion
↑食事だけでなく、世界の主要な宗教が集まるコーナーがあり、それぞれテントを出して、青少年にそれぞれの宗教を知ってもらうためのワークショップを行っていた。これはすばらしい試みだと思う。

jamboree_rainbow
↑また、驚くべきはLGBT(レインボーフラッグ) のテントもあったこと。国際イベントでの多様性への配慮は、宗教だけではないのだ。

オリンピックまでまだ5年も先ではありますが、真のおもてなしとは、多様な人々にきちんと対応し、あらゆるマイノリティの人々にも心地よく過ごしていただくことだと思います。まずは「世界のさまざまな文化、宗教、ジェンダー、食品アレルギー」などの背景について、飲食に関わる人もそうでない人も、今から心得を学んでおいて損はないのではないでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました