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エジプト郷土料理をめぐる旅


アレキサンドリアとカイロの料理を取材

モロッコからエジプトに渡り、アレキサンドリアとカイロを訪れて郷土料理の取材を続けました。

アレキサンドリアの地中海料理

地中海に面したアレキサンドリアは、紀元前のマケドニア国王のアレクサンドロス3世が、その遠征の途上で最初に建設したしたギリシア風の都市。現在はすっかりイスラム教徒のアラブ人の街になっていますが、今もエジプトの中ではヨーロッパ的で、港町らしい自由でコスモポリタンな雰囲気が残っています。

アレキサンドリアは、映画「アラビアのロレンス」のベドウィンの族長アリ役で鮮烈な印象を残したエジプト出身の名優オマー・シャリフの故郷でもあります。結婚のためカトリックからイスラム教に改宗し、映画の中ではアラブ人だけでなくユダヤ人やロシア人などさまざまな人種の役をこだわりなく演じた彼は、まさにアレキサンドリアの申し子のような人だったのかもしれませんね。

アレキサンドリアの郷土料理にも、地中海沿岸に共通する料理が受け継がれています。海岸沿いには、魚やイカ、エビ、貝類など新鮮な魚介をその場で好みの方法に調理してくれるレストランが点在し、その調理法はギリシャやイタリアをほうふつとさせます。前菜もフムスやババガヌーシュ、トマトときゅうりのサラダなど、東地中海の典型的なメゼのスタイルで、何ともヘルシー&おいしいのです。

主食は、「エイシ」と呼ばれるエジプトの平パンです。


↑アレキサンドリアの海岸。開放的で自由な雰囲気を感じます。


↑街中はすっかりアラブ的ですが、ギリシャ時代の遺跡が今も残っています。距離的にもギリシャから遠くありません。


↑海岸付近の魚介レストランでは、店先に地中海で獲れた新鮮な魚やイカ、エビ、ウナギ(!)などが並び、グラム単位で量を測るなどして、選んで調理してもらいます。塩味がやや強く、辛くはありません。カラマリ(イカ)のフライが美味でした。メゼはすべて付いてきます。今はエジプトポンド安のため、日本円に換算すると信じられないくらいの安さです。


↑アレキサンドリアのアラブ人の市場。果物が豊富でした。活気がありすぎるというか、路地裏にもスピーカーからコーランが鳴り響き、車のクラクションや人ごみの喧騒にクラクラします(苦笑)。

↑カイロとアレキサンドリアを結ぶ鉄道の車窓からは、エジプトでポピュラーな食材である食用ハトを飼育する塔をちらほら見かけました。この地域は砂漠ではなく、緑豊かな穀倉地帯で見ていて楽しくなります。ナイル川の運んだ肥沃な土が古代文明を育んだことを表した「エジプトはナイルの賜物」という言葉を実感しました。

カイロのコプト正教会とその料理

首都カイロもアラブ人の街で、シャワルマ(ドネルケバブ)をはじめ中東のアラブ料理が席巻しているのですが、エジプトならではの料理といえば、豆や野菜をふんだんに使った食べものがあげられます。

古代エジプトから伝わる料理も多く、エジプトの人口の10%を占めるといわれるコプト正教会(エジプト古来のオーソドックスなキリスト教)信者の食習慣によって、しっかりと今に受け継がれているのかもしれません。コプト正教では、復活大祭(復活祭)やクリスマスの前などに肉断食を行う習慣があります。

訪れた時期もたまたま復活大祭前の大斎(おおものいみ)の期間でした。フール(煮たそら豆)やターメイヤ(そら豆のコロッケ)、コシャリなど、肉なしでも腹持ちのいい料理が彼らにとって重宝するようです。彼らに敬意を表して、エジプトのベジフードを食べ歩きました。


↑オールドカイロのコプト正教会。アラビア語による聖書で、ミサもアラビア語で行われます。隣にはエジプトのギリシャ正教会の教会がありました。カルケドン公会議で決別した両正教会ですが、カイロでは生活圏が一緒なのが興味深かったです。また近隣にはユダヤ教のシナゴーグや、カイロ最古のモスクもありました。まさにホーリーな一角!


↑エジプトの代表的なベジ料理。ターメイヤとフールとモロヘイヤのスープ。凝った料理ではありませんが、自然の味がいい感じです。


↑ターメイヤはピタパンにはさんでサンドイッチにすることも多いです。こちらはラムセス中央駅の食堂で。


↑カイロ・アメリカン大学出版局による古代エジプト料理のレシピ本「Pharaoh’s Kitchen」(日本語訳あり)にも、ターメイヤやモロヘイヤのスープのレシピが掲載されています。かなり古い料理なのですね。


↑腹持ちがよく安価なコシャリも、肉を使わない料理。エジプトのB級グルメの代表格として絶大な人気を誇ります。日本でいうならラーメンや牛丼、といったイメージでしょうか。パスタや豆類、ライスにトマトソースとオニオンフライがかかっていて、これを混ぜて食べます。おいしいんですが、炭水化物のダブルコンボで(笑)たくさんは食べられません…。なおコシャリが誕生したのは意外と新しく、100年もたっていないそうです。


↑こちらはエジプトらしいデザートのウムアリ。レストランの方もおすすめしていました。牛乳とパンのプディングのような一品です。


↑ホテル・リッツカールトンでのビュッフェでは、さまざまなエジプトの朝ごはんメニューが食べられます。その場でパンを焼いてくれました。珍しかったのは生のなつめやしの実のシロップ漬けでした。


↑リッツのシェフにフール・メダンマスなどエジプト料理についていろいろ質問をしました。


↑こちらは街中の別レストランのシェフ。エジプト式グリルの焼き方を教えていただきました。

なお、エジプトは治安を気にかけていましたが、外務省の海外安全ホームページによれば、カイロやアレキサンドリア、ルクソールなどの観光地は危険度がレベル2から1に引き下げられ、現在は小康状態といった様相でした(状況は逐次変わります)。

カイロもアレキサンドリアも街中は危険という感じはしませんでしたが、やはり油断は禁物ですので、ツアーに参加するなり、それなりのホテルに泊まってガイドを付けるなりし、またデモ現場や軍施設などに近づかない細心の注意が必要と思います。

エジプトは古代からの古い歴史を持つ国ですので、モロッコと同様、料理を実体験して学ぶには大変興味深い国です!


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profile 著者:青木ゆり子 Author: Yurico Aoki

e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、「世界の料理レシピ・ミュージアム・ライブラリー」館長。

雑誌記者、企業のWEBディレクターを経て2000年にサイト「世界の料理 総合情報サイトe-food.jp」を創設。以後、執筆、講師、レシピ開発、在日大使館や大使公邸でのシェフなどとして、食で日本と世界を相互につなぐ社会貢献を目指して活動。
プロフィール詳細

著作:「しらべよう!世界の料理」全7巻(ポプラ社 2017)
「日本の洋食 ~洋食から紐解く日本の歴史と文化」(ミネルヴァ書房 2018)

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