いも煮|山形県・庄内地方

いも煮

羽黒山の宿坊で庄内の山の幸を堪能

毎年9月上旬から10月上旬ごろにかけての東北地方では、河原にグループが集まってさといもや肉の入った鍋料理をつつく「いも煮会」が、年中行事のように盛ん。特に山形県は発祥地といわれ、その起源には、最上川舟運の船頭が河原で棒だらを煮て食べたとか、えびいもと棒だらを炊き合わせた京料理の「いも棒」を最上川の河川交通で商いをしていた商人たちが鍋料理にしたといった諸説があるようです。

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山形のほか宮城など東北各地でポピュラーないも煮は、地域によって調味料や具等に違いがあり、同じ山形県内でも、醤油ベースで牛肉を使った山形風(内陸の村山地方。上記写真の黒パッケージの方)と、みそベースで豚肉を使った庄内風(日本海側。赤パッケージの方)に大きくスタイルが分かれます。今回は9月下旬、日本海に面した庄内地方へ、本場のいも煮を求めて訪ねてきました。

しかし、そもそもどこでいも煮を食べさせてもらえるのか…。現地に親戚や知り合いがいて、いも煮会に参加できるならともかく、いも煮を確実に提供している食堂の情報がほとんどなく、ひょっこりやってきた旅行客がいも煮にありつくのは、意外と難しいことが発覚しました。うーん、困った。

そこで思いついたのが、食事付きの宿泊施設です。でも、ただの温泉旅館ではつまらない…。どうせなら、ひと粒で二度おいしい(笑)庄内でしかできないような体験をしてみたい。ならば、庄内の一大観光名所でもある出羽三山に宿坊でもないかしら…と当たってみたところ、見つけました!

出羽三山のひとつ羽黒山のふもとにある宿坊街には、30数軒の宿坊が立ち並び、中には食事付きの宿坊がいくつかあります。全国から白装束姿の信者たちが集まる参拝のピークは7~8月。9月下旬なら参拝客がちょうど引けたころで、一般客も泊まれるとのこと。そこで、宿坊街の中でも料理に定評のある「三光院」さんに泊めていただくことに…。

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JR羽越本線の鶴岡駅からバスで40分ほど。羽黒山は実に独特で、不思議なところです。宿坊というと普通はお寺の宿泊施設のことを指すはずなのですが、羽黒山の宿坊は、すべて神社。入口には鳥居が、建物内には神殿があります。また早朝のお勤めの儀式では、神主さんが祝詞をあげながら、護摩を炊いたり法螺貝を吹いたりと、およそ神道らしくありません。

こんな羽黒山の神社の祝詞のあげ方がまた、見ていて大変、興味深いのですが、その理由は、明治時代の神仏分離・廃仏毀釈の際に、1400年あまりの信仰の歴史を守るべく寺社が神社に転換した経緯があるためなのです。また護摩を炊き、法螺貝を吹きながらも、神主さん自身は国学院大学卒だったりと、もちろん立派に神道の教えを学んできた方々です。

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宿坊街は羽黒山の入り口に近く、出羽三山神社の本殿へは徒歩で1時間ほどかかりますが、もっとも近い見どころである羽黒山五重塔には、お散歩感覚で歩いて行けます。

参拝のオフシーズンということで宿坊街も閑散としていて、宿泊客は私と、なぜかアメリカ人男性の2人連れだけ。「どこで情報を見つけてくるのか、ときどき外国の方も来られるのですよ」とは、神主さんの談です。30畳は余裕であると思われる大広間にぽつんと夕食の席が設けられ、お膳の上にはおいしそうな山の幸の数々…。「修験者は精進料理だけですが、一般の方には肉や魚もお出しする」とのことで、何とビールも頼めます。

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同じ宗教施設でも、お勤めの厳しさで知られる福井県の禅寺、永平寺の宿坊などに比べると、雲泥の差のゆるさです。神道であるゆえか。これにはちょっと拍子抜けしました。

そして、肝心のいも煮。ちゃんと豚肉も入っていました。いも煮も、ごま豆腐やそば、だだ茶豆、野菜の天ぷらなどその他のおかずも、何から何まで評判通りとても美味。見た目に華やかさや盛り付けに洗練さはなくても 温泉旅館や町の食堂とはちょっと違う、健康的で栄養のバランスもとれた、心づくしの山のごちそうです。

もちろん、米どころ庄内のごはんの味も最高で、思わずおかわりをしてしまった次第…。きっと水もおいしいのでしょう。隣のアメリカ人の方々もおかわりしていました(笑)。

個室に鍵がないのにはちょっと戸惑いますが、畳敷きの部屋は広く、共同の男女別のお風呂も、広くてゆったりと気持ちがよかったです。他の宿坊の中には、何と温泉付きの宿もあるようでした。もちろん翌朝には、神殿で羽黒山ならではの護摩炊き&法螺貝の登場するお勤めの儀式にも参加できます。

宿の神主さんが気さくな方で、いろいろお話させていただいたのですが、いわく、羽黒山には宿自体が少ないため、宿坊が民宿代わりになって一般客を受け入れるようになったとのこと。夏は美しい自然が楽しめるものの、冬は豪雪地帯となり、訪れる人もほとんどいなくなるそうですが、こんな一般の個人客1人にも尽くしてくださるおもてなしの心に、庄内の人の温かさを感じました。

出羽三山では今後、精進料理を町おこしにする計画もあるそうです。なお、いも煮は、いつも夕食の献立にあるとは限らないようですので、ここで食べたい方は事前に問い合わせをなさってみてください。

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