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いがまんじゅう|埼玉県・鴻巣・加須


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米と小麦の二毛作が生んだ、豊かな農村の名残り

一見、まんまるの赤飯のおにぎり。でも、中を割ってみるとあらびっくり、小麦粉の皮のおまんじゅうが隠されている「いがまんじゅう」は、関東平野の真ん中に位置する、埼玉県北部の鴻巣や加須の郷土和菓子。見た目が「栗のいが」に似ていることからこの名がついたそうで、江戸時代より米と小麦の二毛作が行われてきた、日本最大級の河川でもある利根川流域の肥沃な土地で受け継がれてきた、豊かな農村の名残りのような食べ物です。

「人類は肥沃な土を運ぶ大河のもとに住んで、文明を育んだ」。歴史の授業の最初の方で習うエジプト、インダス、メソポタミア、黄河の世界四大文明と同じように、日本でも利根川の周辺は縄文時代以来の遺跡が多く出土されており、古墳も多い地域です。何せ埼玉県の名前も「さきたま古墳群」に由来するくらいなのですから。

東京に近いことから、今では農地の宅地造成が進んでしまいましたが、利根川が”関東平野の母なる川”であることに変わりはなく、今も首都圏の重要な水道水の取水源になっています。

さて、いがまんじゅうは鴻巣や加須あたりの農家で、お正月や婚礼などおめでたい席に必ずといっていいほど供されてきた食べ物ですが、代々各家庭で作られてきたものなので、埼玉県に生まれ育っても、ちょっとエリアが外れていたり、農家ではない新参者は名前すら知らない(かくいう私もそうです)、長らく”コアな”郷土食でもありました。

しかし最近は、町おこしをかねて行政が率先して名前を売り出すようになり、販売店も拡大。そんなわけで、鴻巣と加須のお菓子屋さんに、いがまんじゅうを買いに行ってきました。

まずは、鴻巣へ。鴻巣市は、人形の町としても知られ、利根川の川幅が日本一を誇る、豊かな水源に恵まれた町。最近は、中国・西安のビャンビャン麺をほうふつとさせる、”川幅うどん”という幅広うどんも売り出しています。

まずうかがったのは、鴻巣駅近くにある昔ながらの和菓子のお店、木村屋製菓舗さん。「今では鴻巣市内のあちこちのお菓子屋さんがいがまんじゅうを販売していて、”うちが元祖だ”といっている店もあるけれど、もともとは家庭で当たり前のように食べられていたものなんですよ」とは、お店の方の弁です。商業化して、各店で大きさや具にオリジナリティを出しているようで、こちらでは、つぶあん、こしあんと、本来はなかった栗の3種類を、もともと農家で作られていた標準のサイズで販売。今では石巻など全国からも注文があるそうです。

塩気のあるもちもちの赤飯と、甘いあんこの入った田舎まんじゅうの組み合わせが素朴で、何とも懐かしい味。こちらでは月曜日がいがまんじゅうの特売日で、通常160円のものを100円で販売とお得。ただし、人気があるので売り切れ御免とのことで、早めにお店に行くか、電話で予約して取っておいてもらった方がよさそうです。

一方、関東の三大不動尊のひとつにも数えられている、不動ヶ岡不動尊で知られた總願寺のある加須では、まさにその門前にある青木屋本店さんへ。五家宝という名物のきなこでまぶした練り菓子とともに販売されている、いがまんじゅうは、多少形状に違いがあれど、材料は鴻巣で売られているものとほぼ一緒。もちろん毎日、手作りされていて、午前中に行くと作りたてが買えます。

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↑加須・青木屋本店さんのいがまんじゅう

“発祥地”という言葉にはインパクトがあるので、町おこしのためには、どの行政も「ウチが発祥」といいたがるのはわかります。いがまんじゅうに関しては、鴻巣市に合併された旧川里町が発祥の名乗りを上げていて、市の公式サイトでもそのようにうたっていいます。

そこで、「いがまんじゅう」を店の看板に大きく掲げた旧川里町の「一福」さんにも買いに行ってきました。大ぶりのいがまんじゅう、塩加減も、甘さも絶妙でとてもおいしいです。すぐに売り切れてしまうのもわかる気がしました。ただ、いがまんじゅうが川里町の発祥地である証拠は、○○村の○○さんが発明した等、信頼できるお寺の古文書でも残っていない限り、検証のしようがありません。ですので、おそらく川里町の和菓子店が初めていがまんじゅうを販売した、という意味でいっているのではないかと思います。

ネット時代のご当地グルメブームでは、早く(そして大きな声で)言った者勝ちのきらいがありますが、鴻巣も加須ももともとは同じ文化圏ですので、発祥の文字に惑わされずに、いろいろと食べ歩いてみるのがよいと思います。


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profile 著者:青木ゆり子 Author: Yurico Aoki

e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、「世界の料理レシピ・ミュージアム・ライブラリー」館長。

雑誌記者、企業のWEBディレクターを経て2000年にサイト「世界の料理 総合情報サイトe-food.jp」を創設。以後、執筆、講師、レシピ開発、在日大使館や大使公邸でのシェフなどとして、食で日本と世界を相互につなぐ社会貢献を目指して活動。
プロフィール詳細

著作:「しらべよう!世界の料理」全7巻(ポプラ社 2017)
「日本の洋食 ~洋食から紐解く日本の歴史と文化」(ミネルヴァ書房 2018)

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