崇徳上皇ゆかりの、甘いあんもちが入った白みそ仕立ての雑煮
香川県の坂出市は、2012年のNHK大河ドラマ「平清盛」でも描かれていた、保元の乱に敗れて讃岐に島流しされた崇徳上皇ゆかりの地。都(京都)風の白みそを使ったあんみそ雑煮は、崇徳上皇をめぐる京都との交流から誕生した、讃岐特有の郷土料理です。
お雑煮というだけに、本来はお正月に家庭で作っていただく食べ物なのですが、坂出には、讃岐の白みそ文化と伝統を県外からの旅行者にも広く伝えるべく、あんみそ雑煮を1年を通して提供しているお店があります。1906年創業の水尾醸造所もそのひとつ。そこで、平成17年に文化庁の「お雑煮100選」にも選ばれたお店の水尾由紀さんによる本場のあんもち雑煮をいただきに、坂出へ行ってきました。
白みそ仕立てなのはともかく、甘い小豆あんの丸餅が入っている、すごい雑煮、などという事前情報を得ていて覚悟はしていました。実際に食べてみると、やはり衝撃的…。
が、食べ進んでみると、このあんもちと、米こうじをたっぷり使った上品な薄味の白みそと醸し出すハーモニーが、何ともいいがたく絶妙においしく感じてくる!だしのかつおぶしや、日の出をあらわしたという金時人参、水鏡をあらわしたという大根、海を表現したという青のりの具もグッドで、違う意味でびっくりしました。
こけももジャムをつけて食べるスウェーデンのミートボール(チェットブラー)や、粉砂糖とシナモンがかかったモロッコのチキンパイ(パスティラ)といった、世界の甘い料理を初めて食べたときの驚きと重なりました。まずガツンと脳天をやられるけれど、これもありかな…と、体がだんだん納得していくのですね(笑)。あんもち雑煮は、みそが少しでも濃かったりすると完全にアウトな味だと思うのですが、少なくともこの白みそを使ったものなら、私はいけました。
そもそも、なぜ雑煮に小豆のあんもちを入れるようになったのかというと、江戸時代の讃岐の産物のひとつが砂糖だったためだそうです。甘いあんこもち入りのみそ雑煮なんて、さぬきうどんの裏に隠された香川の暗黒ご当地グルメだー、なんて陰口をたたく人がいましたけれど、だまされたと思って(笑)、水尾醸造所さんの讃岐白みそを使ったあんもち雑煮を一度食べてほしいなぁ、と思います。
さて、「平清盛」のドラマの中では、崇徳上皇がしたためた経典を都から送り返されるなどの冷淡な扱いを恨み、天狗のような世捨て人になって讃岐で崩御した逸話が描かれていました。のちにおどろおどろしい怨霊になって都に災いをもたらした、という伝説まであります。
その真偽はともかく、摂関政治から武家政権樹立の経緯もあって、天皇家が長きにわたって崇徳上皇への仕打ちにうしろめたさや怨霊への畏怖をいだいてきたのは事実のようで、実際に、江戸幕府滅亡の後に明治天皇が、崇徳天皇の御霊を讃岐から京都へ帰還させて白峯神宮を創建したり、昭和天皇が崇徳天皇800年忌に当たる昭和39年(1964年)に、坂出市の崇徳天皇陵に勅使を遣わして式年祭を行わせたりと、その影響は近年まで及んでいるほどです。
そして来年の平成26年(2014年)、崇徳上皇は850年忌を迎えます。都を恐怖に陥れた怨霊のイメージがある一方で、「瀬をはやみ…」で始まる百人一首にも選出されるほど和歌の才能の秀でていた崇徳上皇。荼毘に付した煙が都の方向へ流れたといわれるほど、最期まで都へ帰る日を願っていた上皇をしのんで、坂出市内には、京都と同じ鴨川という名の川や東山と名付けた地名が今も残っています。
都恋しさを詠んだその和歌に感銘し、崇徳上皇を慕って都から讃岐へ往来した人々が伝えたという白みそを使ったあんみそ雑煮。坂出にある上皇ゆかりの地を訪ねつつ、悠久の歴史を想いながら味わってみるのもいいかもしれません。