ノングインレー|ミャンマー・シャン料理|高田馬場


モツと発酵たけのこの煮込み

モツと発酵たけのこの煮込み

発酵食品がいっぱいのシャン族の料理

ミャンマー人が集う東京の”リトル・ヤンゴン”こと高田馬場にある、ミャンマー東部シャン州のシャン族料理の専門店。1998年にオープンし、今年創業15年を迎えた堂々たる老舗です。店名は、シャン州にある有名な観光地、インレー湖からとったものかと(お店にもポスターが貼ってありました)。

高田馬場のミャンマー料理店の中では、1997年創業の「ミンガラバー」(こちらはビルマ族の料理)に次ぐ歴史の古さですね。ミャンマーではビルマ族に次いで人口比率の多いシャン族の同胞のお客さんに支えられてきたこともあって、移ろいの激しい東京の各国料理レストランの中では快挙といえるかも。

それにしても、なぜ東京にミャンマー人が集まってくるのか?なぜ民族を強調したお店が存在するのか?それはミャンマーの政権や難民問題に深く関わっていて、長くなりそうなので後述することにします。まずは食べ物、食べ物。

タイ、ラオス、中国・雲南の影響

ミャンマー料理というと、一般には、カレーのようなダンパウや、魚入り麺料理のモヒンガー、お茶の葉のサラダのラペットゥなどの料理が、比較的知られた料理かと思います。しかしシャンの料理は、これらとはちょっと違う。

シャン州は、中国・雲南省とタイ東北部(イサーン)、ラオスと国境を接した、ミャンマーで最も面積の大きな州で、料理もそれらの地域の影響を受けてか、似通った感じがします。たとえば、イサーン料理のネムに似た皮なしソーセージもあるし、ラープのようなスパイシーな肉のサラダもある…。そしてトッピングには、たっぷりのパクチー(香菜)。食卓の隅に置かれた調味料セットもタイにそっくりです。

また、麺料理のシャン・カウスェー(味噌味の小麦粉麺。汁ありと汁なし)は、ビルマ料理のモヒンガーよりも中国風で、ひとことでいえば中国の担担麺にそっくり。と、日本人にとってはなじみのある料理も多くて、ぐっと安心感があります。辛い料理も多いですが、旨みがあり、激辛ではありません。それに、料理を選べば、脂っこくもありません。

発酵たけのこに、パイナップル納豆…。発酵食品のオンパレード

しかしその一方で、ミャンマー国内のお隣カチン州や、中国の雲南や貴州、インドのマニプルやナガランドなどと同じモンゴロイド系の山岳少数民族の宝庫エリア圏らしい、発酵食品の豊富さも特徴的です。ミャンマーではもともと発酵食品が発達しているのですが、さらに輪をかけて顕著といった感じでしょうか。

発酵食品=匂いがすると思っていただいて、ほぼ間違いありません。上写真のモツと発酵たけのこの煮込みはその代表格で、内臓料理であるのとあいまって、周囲に広がる刺激臭が、なかなか強烈でした。

パイナップル納豆

パイナップルの納豆(シャン産の粉納豆)和え。料理の打ち合わせの際に「僕たち、初夏になるとまかないで食べる料理があるんだけれど...」というひとことを逃さず(笑)、特別に分けていただいた。ありがとうございました!

さらに今回は、お店のシャン族のスタッフがまかないで食べている、パイナップルの納豆和え(上写真)という、珍しい料理を事前にお願いしました。パイナップルと納豆。日本人にとっては身近だけれど、決して一緒に食べる発想がない、常識を覆すふたつの食材のマリアージュ…。

今回の食事会のメンバー(全員日本人)も、口にした途端、みな無言。そのうち一行の誰かが神妙な面持ちでボソリ。「パイナップルの味と、納豆の味が、口の中で、分離、してる…」。

しかしながら、日本のくさやと一緒で、臭い料理には慣れと中毒性があるのでしょうか。発酵タケノコにしても、パイナップル納豆にしても、最初は驚いていたメンバーも、「食べているうちに、だんだんイケると思えてきた」などと感想を聞かせてくれました。先入観がなければ、見た目も何だかおいしそうではないですか?(笑)

これらの地域で発酵食品が発達したのは、山岳地帯の山がちな土地で食糧を保存するという、冷蔵庫がない時代からの生活の知恵なのです。雲南周辺は発酵食品文化の発祥地であり、また、森田勇造さんの著書「倭人の源流を求めて」(講談社)に書かれているように、日本人の起源であるともいわれている地域(だから、不思議となじむのかも)。

そして何といっても、免疫力を高める発酵食品は体にイイ!シャン民族が誇る食文化ともいえるでしょう。「発酵仮面」こと小泉武夫先生と、ぜひご一緒したいところです。

他にシャン味噌を使った炒めものや、高菜のような漬物など、比較的ヘヴィでない発酵料理もあり、これらは違和感なくおいしくいただけると思います。

シャン州の果敢のお茶

シャン州の果敢のお茶

あとは話のタネに、写真ではちょっとグロテスクに見える竹蟲でも頼んでみましょうか、ね。ポリポリと食べられ、同席の女の子は、「私、これ、けっこうイケるかも」などと、意外にも気に入ってしまっていたようでした。最近は、FAO(国際連合食糧農業機関)も昆虫を食べることを推奨しているくらいですし、なかなかいいのでは?(笑)竹蟲は、お店のウリである軽口の薬草酒”シャン酒”のおつまみにもピッタリです。

ちなみに、シャン州にはシャン民族だけが住んでいるわけではなく、周辺の地域ともども国境をまたいで、いろいろな民族が混在しています。

右写真は、高田馬場にあるシャン商品専門店で見つけた、雲南と隣接したシャン州の漢民族地区コーカン(=果敢、Koekant)産のお茶。これは飲料用ですが、生の茶葉を蒸して乳酸菌発酵させたものからラペットゥを作ります。

食から多民族国家ミャンマーを理解しよう

さて、このようなシャン料理も、ミャンマーでは一部の地方料理にすぎません。ミャンマー料理はとてもひとことではいい尽くせない。そして、民族のことを抜きにしてミャンマーは語れない。というのも、何せミャンマーには、大まかには8大部族(人口の比率順に、60~70%を占めるビルマ(ミャンマー)族をはじめ、シャン族、カレン族、ラカイン族、モン族、チン族、ロヒンギャ族、カチン族)、もっと細分化すると135にも及ぶ民族が存在するというのですから…。宗教も民族ごとに、仏教のほか、キリスト教、イスラム教とさまざまです。

というわけで、私は、多民族・多宗教国家ミャンマーは、経済だけでなく、食に関しても「アジア最後のフロンティアである」と思えてしまうのです。うーん、開拓者魂がうずきます(笑)。

ところで、さまざまな民族の多彩な文化が国の誇りである一方、ミャンマーでは残念ながら、民主化が進んでから、これまであまり表沙汰にならなかった民族紛争の深刻さが伝えられるようになってきました。ミャンマーの民族紛争のそもそもの根源は、イギリス植民地時代からの歴史をひも解くことになります。ご興味あれば、wikipediaのミャンマーの歴史~イギリス統治時代あたりをご覧になってください。

それで、政治運動で国を追われた人が多かった軍政時代から変わって、民主化後は、迫害された少数民族が、難民となって日本にも大勢やってくるようになりました。

自宅軟禁から解放されて議員になったアウンサンスーチーさんは民主化の旗手である一方、ある民族にとっては迫害から救ってくれなかった失望の的となり、同じ東京の高田馬場に集うミャンマー人でも、政治思想や民族、宗教ごとにたまり場になるレストランが違うという傾向が、以前より顕著になったような気がします。

そういえば、毎年4月にミャンマーの春のお祭り(といってもアウンサンスーチーさんの肖像画が掲げられ、政治集会の色合いが強いと感じた)「ダヂャン」が日比谷公園で開催されるのですが、あとである民族名を掲げたミャンマー・レストランの方と話したら、「ウチは参加しなかったわよ」などといわれて、ああここでもやはり、と思った次第。

また、東京の各国料理レストランは、日本人のお客を対象にしたレストランが圧倒的ですが、ミャンマー人のレストランは、同郷者を相手に商売ができる。だから、民族の名を冠した店が成り立つ、という面もありそうです(もっとも、さらに少数派の民族の方が経営するお店では、あえて民族名を名乗らない場合もあるようですが)。

ミャンマー人が東京に集まるのは、民族ごとの結束のためなのかもしれません。東京はアジアの一大都市ですから、民族ごとの連盟支部のような会があって、先の「ダヂャン」でも、それぞれの民族が別ブースを出していました。公民館のようなところで毎年、お祭りを行うこともあるようです。

ただ、ラカイン州で迫害されているイスラム教徒のロギンギャの人たちは、なぜか群馬県に難民のコミュニティがあり、先日、お話を聞きに会いにうかがったのですが、イスラムつながりと、食べ物が似ていたりで、パキスタン人らと共存されている様子。ミャンマー人らしい、慎ましく、穏やかな方々でした。

と、それはともかく、2013年4月13日にアウンサンスーチーさんが27年ぶりに来日し、5月24日には安倍首相が36年ぶりにミャンマーに訪問します。ミャンマーと日本の関係は今後、もっと深くなることでしょう。私たち一般の日本人も、身近な食からミャンマーの複雑な民族問題を解き知り、難民問題を含めてミャンマーの人々の立場を理解しながら、真の友情を築いていきたいものですね。

店名 ノングインレー
住所 東京都新宿区高田馬場2-19-7 タックイレブンビル1F(通常の店舗と、カラオケのある店舗が隣同士で分かれているので注意)
TEL 03-5273-5774
営業時間 11:30~23:30(LO23:00)
定休日 無休
公式サイト http://www.ayeyarwady.com/myan_restaurant/nonginlay/

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profile 著者:青木ゆり子 Author: Yurico Aoki

e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、「世界の料理レシピ・ミュージアム・ライブラリー」館長。

2000年にサイト「世界の料理 総合情報サイトe-food.jp」を立ち上げ、以後、執筆、講師、レシピ開発、在日大使館や大使公邸でのシェフなどとして、食で日本と世界を相互につなぐ社会貢献をモットーに活動。
プロフィール詳細
著作:「しらべよう!世界の料理」全7巻(ポプラ社 2017)

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