ラマダン断食時に食べる麦のおかゆ
ペルシャ湾岸の小国ながらも、石油、天然ガスの豊富なエネルギー資源に恵まれて裕福な国であるカタール。
国民はもちろん、外国人労働者にもイスラム教徒が多く、同国は近代的な発展を遂げる一方で、伝統的なイスラムのしきたりを厳守しています。
たとえば、同国のナショナル・フラッグ・キャリアであるカタール航空の機内食は、すべて最初からハラールフード。
外国人客へのおもてなしのためにお酒は出されますが、豚肉は一切使われません。
さて、イスラム教といえばラマダン月の断食の習慣がよく知られていますが、カタールでもラマダン月のための食事が発達しています。
軽いスパイス風味の麦のおかゆ「ハリース」は、なつめやしの実とともに、胃を落ち着かせるためにラマダン月の夜の食事(イフタール)に重用される料理です。
ラマダン月には日の出から日没まで一切食事を摂らない代わりに、夜、食事するのですが、空腹時に一気にたくさん食べると体調を崩してしまいます。
そのため、消化がよく胃にやさしい食事が好まれるのです。
ハリースはラマダン月だけでなく、ラマダン明けのお祭り「イド・アル=フィトル」や結婚式などのセレモニーで振舞われることもあります。
起源はキリスト教国のアルメニア
しかしながら、ハリースはイスラム圏で誕生した料理ではなく、起源は世界で初めてキリスト教を国教にしたアルメニアの料理「ハリッサ harissa」(北アフリカのとうがらし入りペーストとは別物)です。
ハリッサは、アルメニア使徒教会の守護聖人である開明者グレゴリオスの放った言葉から名付けられました。
故事によると、貧しい人々に慈善の食事を提供していた聖グレゴリオスが、羊肉がない代わりに小麦を大釜で煮て調理していました。鍋底に小麦がくっついているのを見て、「ハレック!それをかき混ぜなさい」と忠告し、それが訛って料理名になったといわれています。
アルメニアでは伝統的にイースターの日にハリッサを食べます。
アルメニア研究者の吉村貴行先生によると、「お腹にガスがたまるので、体調の悪い時に食べると消化が悪い」というアルメニア人もいるそうです。現地では、日本の炊き出しのような慈善団体による食事にもしばしばハリッサが振舞われます。
砂漠地帯のカタールでも小麦を栽培
アラブのイスラム圏である南アジアからアフリカにかけて広く伝播して食べられており、地域によってハリース、または冠詞をつけてアル・ハリース Al harees、ハリームなどと呼ばれることがあります。
カタールのハリースは、アルメニアのオリジナルに比較的近く、鶏肉と小麦をペースト状にして混ぜ込むスタイルです。
国土が砂漠地帯にあり小麦の多くを輸入に頼ってきたカタール。しかし近年はハイテクの灌漑技術による農業開発と食糧の自給自足を目指して、野菜などともに小規模ながらも自国で小麦を栽培するようになりました。
同国の食糧と農業の開発を描くカタールの切手(1981)
首都ドーハの市場でも食べることが可能
首都ドーハの観光名所でもある市場スーク・ワキーフには、カタールの国民食的な料理として、炊き込みごはんのマクブースとともに、このカタール式ハリースを1年を通して提供している食堂もあります。
ハリースはおかゆのような料理なので、食欲のない時などの食事としても打ってつけです。
本国では小麦の実を一晩水につけることから調理を始めるのですが、日本では小麦の実が手に入りにくいのと、もっと手軽に作るためにオートミール(脱穀して調理しやすく加工した燕麦=カラス麦)で代用してみました。
ハリース Harees レシピ
【材料】
・オートミール 200g 現地では小麦の実を使用。その場合一晩水につけてふやかす。
・鶏肉 350g あれば骨付きの鶏もも肉
・バター 30g 溶かしておく。あればギーを使用。お好みで別途トッピング用にも。
・水 適量
・黒こしょう ひとつまみ
・クミン粉 ひとつまみ
・塩 少々
・コリアンダーの葉 適量 飾り用