白豆をオーブン焼きした北マケドニアの国民食
バルカン半島の内陸部にある北マケドニアは、ギリシャ、ブルガリアの一部とともに、アレキサンダー(アレキサンドロス)大王を生んだ古代マケドニア王国に位置するとされる国。
ユーゴスラビアから独立した1991年以来、マケドニア共和国という国名はギリシャとの間に軋轢を生んでいました。
そしてついに、2019年に北マケドニア共和国と国名変更。ギリシャの反対により阻まれてきた欧州連合(EU)や北大西洋条約機構(NATO)への加盟に向けています。
美しい民族衣装とテキスタイルの宝庫
首都スコピエは、中央広場にアレキサンダー大王の巨大な銅像が建ち、さまざまな銅像がやたらと多い不思議な街。独立当時の大統領がアレキサンダー大王を観光資源に一発当てようとしたのか(笑)。
しかしそんなことをしなくても、北マケドニアにはすばらしい観光資源が他にもあります。たとえばヨーロッパ最古の湖といわれるオフリド湖、キリル文字の発祥地であり、世界遺産にも登録されているオフリドの旧市街…。
そして、民族の交差点としてエキゾチックな魅力を放つ、刺繍好きにはたまらない美しい民族衣装とテキスタイルの宝庫でもあります。
同国の民族衣装を描く北マケドニアの切手(2001)
パプリカを使った料理が特徴的
北マケドニアの食文化にもまた、かつての支配者オスマントルコ系の影響を受け、また隣国セルビアやブルガリアなどとも共通する、さまざまな文化が混ざり合ったバルカン南部半島らしい料理が浸透しています。
中でも北マケドニアやセルビア南部では、パプリカのペースト「アイバル」をはじめ、パプリカやパプリカ粉を使った料理が多く見られるのが特徴的です。
特産のパプリカや正教会のイースターブレッドなどを描く北マケドニアの切手(2005)
白豆(いんげん豆やライ豆=リマビーンズ、白花豆など)やたまねぎ、パプリカ粉を土鍋に入れてオーブン焼きしたタフチェ・グラフチェは、そんな北マケドニアの国民食とされる料理。
セルビアにはプレブラナツというそっくりな料理があり、また肉を加えてスープ仕立てにしたパスルージや、サワークラウトを加えたポドヴァラックなどバリエーションも豊富です。
トルコやコーカサス、バルカン半島にかけての地域では土鍋のオーブン焼き料理が発達しており、タフチェ(tavce)は西アジアやコーカサスに由来するタヴァ(tava=鍋)を語源とし、グラフチェ(grace)はスラブ語で豆を意味します。
いろいろな食材を長時間煮込んだり焼きながら、それぞれの持ち味を混ぜて凝縮させる調理方法は、ユダヤ教徒が古来より安息日に食べるスロークックの煮込み料理「チョレント(ハミン)」の影響を受けたものとも思われます。
缶詰の白いんげん豆水煮でも作れます
タフチェ・グラフチェは肉を使わなくてもしっかりとお腹にたまる、豆をたっぷり使った健康的な料理でもあります。
北マケドニアに多くの信徒がいるキリスト教の正教会では復活祭やクリスマス前などに肉断食を行いますが、そんな時期に食べる料理としても便利。伝統的には素焼きの土鍋で調理されます。
缶詰やパック入りの白いんげん豆水煮でも作れます。ただ白豆は大きいほどおいしいので、できればがんばって一晩水につけてゆでた白豆を使うことをおすすめします。
その際、豆をゆでる水を何度か替える過程をはさむことで、消化しにくい糖を排出し、お腹にガスがたまるのを防ぎましょう。
また、旧ユーゴスラビア諸国の味の素のような存在である野菜だしの調味料ベゲタ(最近はMSG不使用のものも)を加えれば、より本場らしい味になります。
タフチェ・グラフチェ Tavče Gravče レシピ
【材料】
・玉ねぎ 1個 薄切り
・パプリカ粉 大さじ1
・とうがらし粉 ひとつまみ
・塩 大さじ1
・黒こしょう 小さじ1
・植物油 大さじ3 あればひまわり油
・水 適量
・ドライパプリカ 少々 なければドライトマト(細かくカットされたもの大さじ2)。入れなくてもよい。