インドでもっとも豊かで贅沢な料理
1526年から1858年まで、南インドの先端を除いてインド亜大陸のほぼ全域を支配したイスラム王国のムガール帝国。中央アジアやペルシャの影響を受けたその料理は、ムガール宮廷の厨房ではぐくまれ、現在もインドの中でもっとも豊かで、もっとも贅沢な料理として受け継がれています。特に北インドやパキスタン、ムガールの影響を受けたハイデラバード藩主国などの料理に影響を与えました(上写真は、ムガール帝国の最大領土です)。
↑パラク・パニール(右)とレンズ豆入りのムリガタウニースープ
ムガール帝国は、1556年から王位に就いたアクバル大帝の時代に飛躍的に発展。大帝はイスラム教以外の宗教にも寛容で、ヒンドゥー教徒とも融和をはかってきました。そのため、ムガール料理には、ヒンドゥー教が神聖とする牛の肉のほか、豚肉、魚を使ったメニューはなく、羊肉と鶏肉の料理が圧倒的。ムガールの古典的な料理ではラム肉しか使わなかったともいいます。
ムガールの主食は、チャパティやナン、パラータなど小麦を使ったパン類で、調理のオイルには主にギーや菜種油を使用。スパイスをはじめ、ナッツやクリームなどの乳製品をふんだんに使ったムガールの代表的料理は、シャミ・ケバブ(羊のひき肉のケバブ)、ムグライ・ラーン(ムガール式の骨付きラム肉煮)、キーマ・マター(ひき肉と豆のドライカレー)、ムグライ・ムルグ・ビリヤニ(ムガール式鶏肉のビリヤニ)、パラク・パニール(ほうれん草と白チーズのカレー)、タンドル窯で焼いたチキンやパニール、パンのロティなどです(タンドリ・チキンに代表されるタンドル料理は、パンジャブが起源という説がありますが、ムガール料理として紹介されることも多いです)。
どれもリッチな味わいですが、現代人がふだん食べるには栄養過多気味な?料理も多いかもしれません。