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4/28/2002

イントロダクション

※2002年の記事のため、情報が古くなっています。


~テロ事件後のニューヨーク

中央郵便局2001年9月11日に起きた、国際テロリストによるワールド・トレード・センター爆破事件から、はや半年以上がたちました。

私にとってニューヨークは、初めて旅した外国であり、また長期滞在の経験や、知人が在住していたりと、長年、縁のある街です。

期待と不安を胸に、初めてニューヨークを訪れた十何年前の夏の日、ニューワーク空港からマンハッタンに向かう道なりにバスの窓からかすんで見えた、ワールド・トレード・センターの2つのビルの姿が、今もまぶたに焼きついています。それが、跡形もなくなってしまったなんて...。

今回、30何回目かの渡米で初めて、自由の女神とエリス島を回るフェリーに乗ったのですが、デッキから観たマンハッタン島先端のスカイラインは、シカゴかどこかまったく別の街に見え、改めてショックを受けました。

ただの旅行者がこれだけショックなのですから、住んでいる人々の精神的な傷は想像を絶するものと思います。市内の郵便局など公共の建物や、個人の商店、レストランなどいたるところで星条旗の掲揚が目立ちました(左写真)

そして、地下鉄の通路に張り出された死者・行方不明者のリスト。そのおびただしい人名と、寄せられたメッセージの数に、大変な惨事であったことを改めて実感します。観光地にたむろするような、おのぼりさん目当てのラフなニューヨーカーのモノ売りも、心持ち、優しくなったような気がしました。

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さて、そんな惨事の中で、一躍英雄となったのは、警官や消防士として現場で命をかけて救出活動を行ったアイリッシュの人たち(ニューヨーク市の警官や消防士のほとんどがアイルランド系)。その勇敢な姿は、世界中でテレビ中継されました。今も、チェーン書店の"Barnes and Noble"にはアイルランド移民の本のコーナーが設けられ、おもちゃ屋さんのウィンドーには消防士の人形が並べられています。

アイルランド系といえば、女性は、「風と共に去りぬ」のスカーレット・オハラに代表されるような、鼻っぱしは強いが、人情味あふれるしっかり者。男性は強靭な体格で、無類の酒好きという人種像が一般的です。南北戦争での勇壮な戦いぶりが評価され、それが現在のアイルランド系警官や消防士としての伝統に受け継がれています。

アイルランド系住民が多いといわれるニューヨークですが、3月17日に行われた今年のセント・パトリック・デイ(アイルランドの守護神の祭日)のパレードは、殉職者への哀悼をこめてひときわ盛り上がったことでしょう。アフガン・レストラン

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その一方で、ニューヨーク在住のアフガニスタン人のことが気がかりでした。彼らは、冷戦時代に本国から逃れてきた人々で、市内には、彼らの経営するアフガン料理のレストランが少なからずあります。

テロの後、彼らの店舗はどうなったのだろうと心配していましたが、意外なことに、といっていいのか、(少なくとも繁華街にあるお店は)すべて健在でした(右写真)。表に目立つように星条旗を掲げて...。

彼らはテロリストと関連がないどころか、反米感情もなかったはず。ただ、本国で親や兄弟が米軍の報復爆撃で被害を受けているかもしれない。それでも、アメリカを表向きに非難することができない...。そんなマイノリティ(少数派民族)の心境を考えると、複雑な気持ちになります。

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テロ事件ひとつをとっても、さまざまな境遇の人種が暮らす街ニューヨークには、それぞれの民族のドラマがあります。そんな街だから、日本人としての自分の民族のアイデンティティを認識せざるを得ない。そして、アイデンティティを確かめたいから、私はまたニューヨークに行ってみたくなるのかもしれません。(by ゆ)

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