2010年10月21日

中国の麺料理|シルクロードの料理

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麺の生まれ故郷へ

シルクロード各地の料理を巡る旅、次は中国です。中国西北地方は麺の故郷として知られていますが、その代表的な麺料理を確かめるために、まずは国中の料理店が集まる中国の首都・北京を訪ねてみました。以下は、ごく代表的な中国の麺料理の数々です。

山西刀削麺

中国の麺の歴史は、紀元前200年頃からの漢の時代に始まったといわれます。西アジア原産の小麦がシルクロードを通って中国に伝わり、小麦を麺に加工する技術が発達したのです。中でも、「麺食のふるさと」といわれる、北京からもさほど遠くない山西省は、まさに麺料理の宝庫。唐人美食叢書の本「山西面食」には、実に18種類以上もの山西の麺料理が紹介されているくらいです。

刀削麺、刀切麺、一根麺、翡翠麺、そして、「東方見聞録」を書いたマルコ・ポーロが中国からイタリアに持ち帰ってラビオリになったのではないかと夢想してしまうようなカタチの"猫耳"...(もちろん、これは残念ながら事実ではありませんが...)。

そんな数多い山西の麺料理の中でもとりわけ有名なのが、刀削麺です。水で練った小麦粉の生地をまな板に乗せ、包丁で削いで鍋の中のお湯でゆでていく刀削麺の製法は、手延べ麺とともに、初期の頃から伝わる麺製法のひとつだといわれます。

日本では「西安刀削麺」とうたって、厨師が麺を切っていくパフォーマンスとともに、辛いスープに入れた刀削麺の店が広まりましたが、山西の刀削麺は、醤油味のあんをかけたり、またはスープ麺にチンゲン菜やチャーシューをトッピングして食べます。

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さて、そんな山西刀削麺に出会うために訪ねたのは、北京にある創業50余年の山西料理店「晋陽飯荘」。以前、東京の青山一丁目にあった山西料理店「晋風樓」の本店です。中華老字号、国家特級酒家、北京市旅游局?外定点企業の4つ星レストラン、「全国緑色餐飲企業」などの称号を持つ堂々たる老舗で、清朝乾隆年間の大学士・紀暁嵐の住居を改造した、貫禄と風情のある店舗がひときわ目立ちます。

ちなみに店名の「晋陽」は、現在の山西省の省都で、春秋時代(紀元前770年?紀元前403年)の大国晋の都として2500年の歴史を持つ古都・太原の古名です。

こちらの山西刀削麺(上写真)は、あらかじめ麺とあんに分かれていて、小さな碗によそってシェアし、あんをかけて食べるスタイル。日本の西安風刀削麺に比べると見かけは地味だけれど、山の恵みの山菜やきのこがたっぷり入った滋味あふれるあんと、モチモチの刀削麺のマッチングがおいしいです。

出迎えてくださったオーナーの王さんいわく、また日本に出店したいとのこと。日本でも再び、山西刀削麺をはじめとする本格派の山西料理が食べられることを待ち望みたいところですね。

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また、スープ麺スタイルの山西刀削麺(上写真)は、北京の街のいたるところにある食堂で食べられます。1杯20元(260円)前後と手ごろな価格で、どんぶりも小ぶりなので、おやつ代わりもなって便利でした。

ところで、小ぎみよく麺を削って鍋に放り込む厨師の姿が印象的な刀削麺、作るには何か特別な調理技術が必要な気がしますが、実は中国では家庭でも作られていて、レシピ本も販売されているくらいです。


北京炸醤麺

北京の炸醤麺(ジャージャンミエン)は、日本のコンビニでも買える盛岡のじゃじゃ麺や、韓国のチャジャンミョンの元祖。ただし、北京の炸醤麺は日本で食べられるような甘い肉味噌のたれではなく、しっかりした塩辛い味で、盛り付ける具もちょっと違います。

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今回訪れたのは、「老北京炸醤麺大王」という、炸醤麺ひとすじの北京の有名店(上写真)。市内にいくつか支店があります。麺に、大豆やもやし、きゅうりなどの具が別々の小皿で添えられ、食べる直前に店員がすべて混ぜてお客に供し、肉味噌を麺にかけて混ぜて食べます。北京でも店を選ばないとなかなかおいしい炸醤麺に出会えないようですが、この店で食べれば間違いありません。

お店はカジュアルでいかにもB級グルメ風なのだけれど、麺も肉味噌もシンプルながらさりげなくしっかり作られていて、思わずかみしめて味わってしまいました。こんなおいしい炸醤麺、日本のどこかで食べられるでしょうか...(赤坂の北京宮廷料理の店「涵梅舫」の炸醤麺が本場チックのようで、今度試してみたいと思っています)。


蘭州牛肉麺

回族が生んだ清真(イスラム)料理のラーメン。蘭州拉面ともいい、まさに日本のラーメンのルーツでは?と思うほどよく似ています。この麺の生まれ故郷である中国西北部の蘭州の人たちは朝から深夜までこの牛肉麺を食べているのだそうです。

中国では牛肉麺が大人気で、チェーン店「李先生の牛肉面」をはじめ北京の街でもいたるところで牛肉麺の看板を見かけましたが、本家・蘭州の流儀を守った牛肉麺には大都市・北京でもなかなか出会えません。蘭州牛肉麺の流儀とは、すなわち、コクがあるのに透き通ったスープの清、大根の白、ラー油の紅、香菜の緑、麺の黄という5色が麺の中にそなわった牛肉麺です。

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今回は、北京市内にある、蘭州市商務局が認定した蘭州牛肉麺の1号店のお墨付きを持つ「燕蘭楼」を訪ねてみました(上写真)。こちらは本場スタイルの清真の店で、店員の男性はすべて特徴のあるイスラム教徒の白い帽子をかぶっていました。

さて、その蘭州牛肉麺(上写真)は、見た目が日本のラーメンによく似ており、あっさりしてなじみ深い味。透き通ったスープに、香菜と牛肉のトッピング。好みでラー油をかけます。なぜ大根が...?という謎は、あとで知った5色の1色ということで理解できました(笑)。

ちなみに地元の方は、まず麺の太さを指定して、羊肉串(シシカバブ)を片手に、牛肉麺をすすっていたのが印象的でした。何も指定しないと細い麺が出てくるようです。

お店のオープンキッチンの厨房では、厨師の役割分担がなされていて、麺の担当は小麦粉の生地を宙に放り出して何度もねじりながら手だけで魔法のように麺を手述べしており、思わず見とれていたのですが、このねじった状態の生地が、あとで紹介する中国の小麦粉の揚げ菓子「麻花(マーファ)」、すなわち、奈良で見たそうめんの原型という「麦縄(むぎなわ)」のカタチにそっくり。「あ、シルクロードがつながった!」と、思わず納得、ひとりで興奮した一瞬でした(笑)。

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この手延べ麺を作る様子は、残念ながらうまくカメラに収めることができなかったのですが、帰国後に訪ねた、池袋西口にある蘭州牛肉麺の店「極(きわみ)」に行き、店先で細麺を手延べするパフォーマンスが、ほぼ同じものでした。こちらのお店では麺のスープが白濁していて、大根のトッピングがないなど違いがあるのですが、手延べ麺を作る様子はなかなか見ものですので、興味のある方は訪ねてみてください。


新疆拌麺 (バンミェン、ラグメンまたはラグマン)

ラグメン(ラグマン)は、中国の西域・新疆ウイグルの代表的な麺料理です(ウイグルや中央アジアの麺については、後日、別途リポートします)。漢字では、攪拌(かくはん)の「拌」に「麺」。まさに麺とあんをかき混ぜて食べる麺です。あんが麺に最初からかかっていることもあるし、別々なこともあります。また、中国国境の向こうのウズベキスタンなどでは、ラグメンはスープ麺として食べることが多いです。

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なお、新疆拌麺とうたっている場合、新疆(ウイグル)はイスラム教徒の多い土地のため、豚肉はご法度。必ず羊肉を使います(羊は、テュルク系遊牧民であるウイグル族にとって、なくてはならない食べ物でもあります)。ちなみに、中国の人口の大多数を占める漢族の間では、拌麺に豚肉を使うことへの禁忌は特にないようです。

今回は、新疆拌麺を食べるために、北京のイスラムタウン"牛街"にある老舗のウイグル料理店「吐魯番(トルファン)餐庁」を訪ねてみました。麺は手延べで、羊肉、インゲンなどの具が入ったシンプルなトマト味のあんは、最初から麺にかかったスタイルでした(インゲンの具入のラグメンは、トルファン地方独特のものだとか)。普通においしく、ランチタイムにも気軽に食べられて重宝しました。

ちなみに牛街の界隈は、商店の庇がイスラム色のグリーンで彩られ、ウイグル・レストランのほか、モスクや回教徒のためのスーパーマーケットが集まっていて、遠い新疆ウイグルへの異国情緒が味わえます。

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名古屋のあんかけスパゲティに見かけが似ているラグメンは、家庭でも簡単に作れます。本来は麺を手延べするのですが、初心者の方は、出来合いのコシのあるさぬきうどんの麺を使うといいかも。何となく本場っぽくなります(あるウイグル料理店のスタッフいわく、ラグマンの麺はさぬきうどんの元祖だ、と言い切ってしまうくらいですから(笑)。これに、トマト、羊肉、たまねぎ(他お好みでピーマン、パプリカ、きくらげ、インゲンなど)をベースにしたソースを作って、塩で味付けし、麺の上からかければ出来上がりです。ご興味あればぜひ作ってみてくださいね。


麻花 (マーファ)

麻花は、手延べ麺を作る際のねじる過程のカタチをした、中国華北でポピュラーな小麦粉の揚げ菓子。奈良の三輪そうめんの老舗「山本」が販売しているお菓子「麦縄(むぎなわ)」にそっくりなのでびっくりし、思わず北京の街角のお菓子屋で立ち止まってしまいました(あとで買って食べてみたら、味も麦縄とほぼ一緒)。それもそのはず、麦縄は、遣唐使が中国から奈良に持ち帰ったお菓子だったのです。

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左写真が麻花、右写真はその作り方。生地には砂糖が入っていて、ほんのり甘い。


麦縄はそうめんの原型だと聞いていましたが、これも蘭州牛肉麺の店で、麺の手延べ方法を見て納得。手延べでだんだんと細くなっていく蘭州牛肉麺の麺は、そうめんにそっくりです。

日本人はとうに忘れてしまったかもしれないけれど、1000年前のシルクロードの食のルーツは、今も中国の市井に生き続けているのだなぁと、感慨にふけった中国の旅でした。機会があれば、北京で収集した麺料理の情報を頼りに、時間をかけて実際に中国各地を訪ねてみたいものです。

※他に中国の麺料理として有名な、四川の坦々麺は、誕生して100年程度とまだ歴史が浅いため、また雲南の過橋米線は米麺のため、また別の機会に取り上げたいと思います。

次は、シルクロードの発着地である千年の古都・西安(長安)の宮廷料理についてお届けします。



profile 著者:青木ゆり子 Author: Yurico Aoki


e-food.jp代表、各国・郷土料理研究家、「世界の料理レシピ・ミュージアム・ライブラリー」館長。

2000年にサイト「世界の料理 総合情報サイトe-food.jp」を立ち上げ、以後、執筆、講師、レシピ開発、在日大使館や大使公邸でのシェフなどとして、食で日本と世界を相互につなぐ社会貢献をモットーに活動。
プロフィール詳細
著作: 「しらべよう!世界の料理」全7巻 (ポプラ社 2017)


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